第42話 それぞれの役割
ようやく夜光とスノーラを見つけた誠児達。
人魚達を拉致したレーツの目的が臓器を取り出す事実に、スノーラはさらに追い詰められる。
その時、ゴウマからその島に影の反応があるという連絡が入った。
「えぇ!! 影がこの島に来てるの!?」
驚くセリナに頷いた後、ゴウマが続ける。
『先ほど、騎士団に連絡を入れたんだが、到着まで少なくとも2時間はかかる』
その情報に、ライカは呆れた顔で首を振る。
「当てにできそうにないわね」
「でっですが、その・・・影はどどっどちらにいらっしゃるのでしょうか?」
セリアがそう呟いた時、少し離れた場所から、悲鳴と銃声が夜光達の耳に飛び込んできた。
察するに、武装男達が何かと戦闘しているようだ。
「・・・どうやらここにいるみたいだな」
誠児がそう言うと、みんなに緊張が走った。
その中で、夜光が他人事のように呟く。
「でも俺とスノーラはマインドブレスレットを、白衣のおっさん達に取られちまったからどうすることもできないぜ?」
夜光は自分の左腕を見せて、マインドブレスレットがないことを証明した。
そんな時、ルドが辺りを見ながらこう叫ぶ。
「おい、みんな! スノーラがいないぞ!!」
ルドの言葉を聞き、夜光達は辺りを一斉に見渡す。
確かに先ほどまでそばにいたスノーラの姿はなくなっていた。
「まさか、1人で妹を助けに行ったのか!?」
「そっそんなの無茶です!」
誠児とマナの言う通り、武装した男がうろついている上に、影まで現れたこの状況で単独行動はあまりに無謀だった。
それはスノーラが一番よくわかっている。
「・・・スノーラ」
だが、ミーナのことで頭がいっぱいになっている彼女に、そんな冷静な判断はできないと、ルドは内心理解していた。
「大変! 探しに行こうよ!」
そう言って、探しに行こうと走るセリナを、ライカが全速力で止める。
「ちょっと待ちなさい! 影の方はどうするのよ!?」
「あっ!そっか!・・・でもスノーラちゃんが」
意見がまとまらない中で、誠児がこう提案する。
「じゃあこうしよう。 ルド達は影と戦って時間を稼いでくれ。 その間に俺達でスノーラを探す」
誠児の提案は、最善だとも思われるが、いつ武装男に出くわすかわからないこの状況では危険な行為でもあった。
「・・・わかった。 スノーラのことは頼む」
スノーラを一番心配していたルドだったが、影と戦うことができるのが自分達だけである以上。その気持ちを抑え、誠児達に託すことにした。
「みんな行こう!」
ルドを先頭にセリナ、セリア、ライカの4人は、その場を後にした。
「よしっ! じゃあ夜光。 スノーラを探しに行くぞ!」
それを聞いた途端、夜光は心底嫌そうな顔をした。
「えっ!! 俺も行くのかよ!!」
「お前はマイコミのスタッフだろ!? 文句言わずにさっさと来い!!」
嫌がる夜光のシャツを掴み、そのまま引きづる誠児。
そこへ、女神が思むろに手を上げる。
「あの~、さっきから気になることがあるのですが」
「どないしたん? 女神様」
きな子がそう聞き返すと・・・
「さっきからずっと感じてるんです」
「・・・女神様。 性感帯の話やったら後にしてくれへんか?」
「ちちっ違いますよ!!」
顔を真っ赤にする女神の元へ、メモとペンを持った笑騎が近づく。
「女神様ぁ!! その話、この笑騎にみっちりと話してくれませんか!?
なんなら、お互いの性感帯をいじり合って、より深い関係に・・・」
暴走する笑騎の頭に、誠児の蹴りがさく裂した。
「お前は少し黙ってろ! それで女神様、いったい何を感じているんですか?」
「はっはい! あの・・・近くに女神石の反応があるんです」
「女神石? 以前聞いたエネルギー源になる石のことですか?」
「はい。そうです」
聞きなれない言葉に、マナがきな子に尋ねる。
「あの、女神石ってなんですか?」
「簡単に言ったら、心石より強い力を持ってる石のことや。 マインドブレスレットとかアストとか特別な機械にしか使わへん貴重な石やからな。 そこらへんに落ちてるもんではないで?」
「つまり、近くに夜光さんとスノーラさんのマインドブレスレットがあるってことですか?」
「まあ、そういうこっちゃ」
その説明に、夜光は腑に落ちない点があった。
「それって、セリア達のマインドブレスレットじゃねぇのか?」
その質問に対し、女神は首を横に振る。
「違います。 セリアさん達のマインドブレスレットとは違う反応です」
「そもそもお前、その石を探すのに苦労してるんだろ? なんでこんなに簡単にわかるんだ?」
女神の務めには、聖域で女神石の探索という物がある。
それは、手当たり次第に聖域内をスコップなどで掘るという原始的な作業であった。
その話を以前聞いた時は、涙ながらに愚痴っていた。
「聖域では、空気中に女神石の力が充満しているので、わからないのですが、聖域以外の場所なら。ある程度近くにあれば、女神石の反応を感じ取ることができるんです!」
「・・・」
女神の言うことに、今ひとつ信用できない夜光。
「ほんなら、ウチらでマインドブレスレット探しに行ったるわ。 マナちゃんも危ないから付いてきぃ」
「はっはい!」
「大丈夫ですか?女性だけで行動して」
心配する誠児に対し、きな子がぶっきらぼうに答える。
「大丈夫や。 なんかあったらウチの発明で逃げるし、こっちには腐っても女神様が付いてるからな」
「くくっ腐ってなんかいません!!」
そこへ、いつの間にか復活した笑騎が飛び出す。
「そんならこの紳士の鑑である俺が、女神様とマナちゃんをしっかりお守りするで!!」
などと言いながらも、馴れ馴れしく女神とマナの肩に手を回す笑騎。
「なんでウチが入ってへんねん!」
名前がなかったことに腹を立てたきな子が笑騎の顔を蹴り飛ばした。
誠児は倒れた笑騎の足を掴むと、「お前は俺達と来るんだ!」と夜光もろともい引き連れていった。
振り返り様に、「マインドブレスレットのことはお願いします」と女神たちに言い残していった。
夜光達が行動し始めた頃、ミーナを探しに単独行動をとってしまったスノーラは、当てもなくひたすら走っていた。
スノーラは堂々と通路を走っているため、当然武装男にも出くわす。
「なんだ!?貴様!? 止まれ!!」
しかしスノーラは聞く耳持たず、すばやく男の懐に近づいてライフルを奪う。
「邪魔だ!!どけ!!」
憤怒の表情を浮かべるスノーラは奪ったライフルで武装男を力強く殴り倒した。
「ミーナはどこにいる!? 答えろ!!」
武装男にライフルを向け、ミーナの居場所を聞き出すが、武装男は「しっ知らない」と怯えた表情で答える。
「くそっ!!」
スノーラは再び武装男を殴り、気絶させると再び走り出す。
その後も何度か武装男や白衣の男に出くわし、奪ったライフルで殴り倒したり、撃ち倒したりしながら、ミーナの居場所を聞き出すが、全員知らないの一点張り。
撃ち倒した武装男達は、防弾服を着ているため、死んではいないが衝撃であばらを折っていた。
防弾服を確認していたからこそ、最低限の理性が残っていたスノーラは撃つことができたのだ。
捜索を続けるスノーラの視界に、ある部屋が飛び込んできた。
「・・・!! 停泊場?」
部屋のドアには【停泊場】と書かれていた。
スノーラはそれが気になり、ドアの鍵をライフルで撃ち抜いた、
ドアをくぐると、そこにあったのは巨大な潜水艇だった。
「こっこの潜水艇は!?」
スノーラは驚愕した。
そこにあったのは、両親が殺された時に目に焼き付いていた潜水艇であった。
潜水手が停泊している水場は、潮の香りが漂っているので海とつながっているようだ。
そこへ突如、潜水艇のハッチから人が出てきた。
スノーラは急いでライフルを構える。
その先にいたのは、不気味な笑みを浮かべたレーツであった。
「おやおや、大人しくするようにお願いしたはずですが?」
レーツはとぼけたような口調でスノーラに語り掛けるが、スノーラは無視する。
「ミーナはどこにいる!?」
「あなたの妹ならば、この中にいます。 会いたければここまで来てみてはいかがです?」
そう言い残すと、レーツは再び潜水艇の中に入っていった。
「待てっ!!」
スノーラは考えなしに、潜水艇に近づくと、設置してあった階段を上り、ハッチまで駆け上がった。
ハッチを開け、はしごを降りスノーラは潜水艇の中へと入っていた。
潜水艇の中は想像以上に広く、あちこちにエンジンルームなどの部屋がある。
そして、前方の操縦室に入っていくレーツを追うスノーラ。
その中で見たのは、人間1人がようやく入れるほどの大きさしかない水槽に閉じ込められていたミーナの姿であった。
「ミーナ!!」
「スノーラ!!」
呼び合うスノーラとミーナの間に入るレーツ。
その不敵な笑みに、怒りを抑えられないスノーラは再びライフルを向ける。
「ミーナを放せ!! さもなくば貴様を撃ち殺す!!」
「やってごらんなさい。 私の後ろにいる妹に当てない自信があるなら」
「くっ!!」
レーツがいるのはミーナが入っている水槽とスノーラの間。
レーツを撃てば、間違いなくミーナにも弾丸が命中する。
銃に自信のあるスノーラでも、この状態でレーツだけを撃つことが不可能であった。
「ミーナ・・・」
スノーラが、迷っていたその時だった!!
レーツはすばやくポケットから拳銃を取り出し、スノーラに発砲した。
「うっ!!」
弾丸はスノーラの右足に命中した。
「スノーラぁぁぁ!!」
ミーナは思わず叫ぶ。
スノーラはその場で倒れ、血が溢れるように流れ出る右足を必死抑えながらも、レーツを睨みつけた。
「いかがですか? 再び足を貫かれた気分は? しかも、あなたの銃によって」
レーツが握っていた拳銃は、スノーラが愛用していた物であった。
それはスノーラとっては、撃たれたことより大切な銃をレーツに使われていることの方が心が痛かった。
「その銃は貴様なぞが使っていいものではない!!」
「何を言っているのですか? これは人間の武器、言うならば人間の力です。
人魚ごときが使って良いものではありません」
「武器ではない!! それは人間との信頼の証だ!!」
それを聞いた途端、レーツは大声で笑いだした。
「はははは!! 信頼? 人間と人魚が? なんとバカバカしい!」
笑いながら、スノーラに近づくレーツ。
「信頼とは人間同士の心の中で生まれる神聖な感情です。人魚ごときが、信頼を語らないでいただきたい」
レーツはスノーラの元に来ると、スノーラの落としたライフルを遠くへ蹴飛ばし、再び銃を向けた。
「言ったはずです。 人間はこの世界の頂点に立つべき存在であると。 人間の命こそが、この世で最も大切なものなのです。 人間以外の生き物など、人間に利用されるためだけに生きていれば良いのです」
レーツの人間以外を完全に見下す発言に、スノーラは一瞬、足の痛みを忘れて立ち上がり・・・
「黙れ!!」
レーツの顔を殴った。
「ごはっ!!」
しかし、足の痛みで力が入らなかったため、あまり効果がなかったらしく、レーツは倒れもしなかった。
レーツは、拳銃でスノーラの顔を殴りつけた。
「うっ!!
再び倒れるスノーラに対し、レーツは先ほどまでの笑みがウソのように消え、怒りに満ちた表情を浮かべていた。
「このあばずれ!! 人魚の分際でよくも人間様にこんな無礼を!!」
レーツは右足を上げると、勢いよくスノーラの右足を踏みつけた。
「あああぁぁぁ!!」
右足からはさらに血が噴き出し、スノーラの痛みは想像を絶した。
「楽に殺してやろうと思ったが、やめだ!! お前は苦しませながら殺してやる!!」
レーツはその後も怒りのまま、スノーラの右足を踏みつけるだけでなく、顔や腹なども踏みつけた
「あああぁぁぁ!!」
あまりにも恐ろしい光景に、ミーナは涙を流した。
「やめろ! もうやめてくれぇぇぇ!!!
ミーナの叫びもむなしく、スノーラは踏み続けられた・・・
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