第34話 人魚の島

ミュウスアイランドで海を満喫する夜光達。そんな彼らの前に、人魚達が姿を現した。

滅多に人前に姿を見せない人魚に興味を抱いたメンバーは人魚達の向かう岩場に走って行った。


人魚を目撃した地点から10分ほど走った岩場に人魚達はいた。

夜光達は人魚達を刺激しないように、少し離れたところにある茂みからこっそり見ることにした。

「へぇ~。 人魚って本当に下半身が魚なのか。 なんか変わった種族だな」

ルドが初めてみる人魚に関心していると、その横でライカが半眼でルドに言う。

「ケンタウロスだって似たようなもんでしょうが・・・」

ルドの正体は人間の上半身と馬の下半身を持つケンタウロス。

ライカの言う通り、似たような種族ではある。


人魚達の様子を見ていると、なにやら岩場のあちこちを調べて、キラキラひかる小さななにかを拾っている。

「あれなんだろ?」

距離があるため、よく見えないセリナは身を乗り出す。

「ちょっ、セリナちゃん。 押さないでよ」

セリナの前にいるマナが必死に倒れないように手を地面につけて自分とセリナの体を抑えている

「小さな石のようですね・・・」

セリアも人魚が何を拾っているか気になっている。

その時、意外な場所から答えがくる。

「あれは岩場にある真珠を集めているんです」

セリアが視線を向けたのはスノーラだった。

「真珠・・・ですか?」

「はい。 昔から人魚はアクセサリーなどに使う真珠を集める習慣がありまして、本来は深海で探すことが多いのですが、まれに浅瀬で拾うこともあるのです」

「お前よく知ってるな」

夜光がスノーラの回答に関心すると、スノーラは少し表情が曇る。

「・・・いえ、大したことではありません」

夜光がスノーラの表情に違和感を覚えた時、恐れていた事態が起きてしまった。

「わわっ!!」

マナの力が弱いのかセリナが重いのかはっきりしないが、結果力尽きて倒れてしまったマナ。

倒れた2人に、人魚達は気づいてしまった。

「にっ人間!!」

突然現れた人間に、人魚達は大慌てで海の中に逃げていく。

「「「「・・・はぁ~」」」」

夜光達はもう身を隠す必要はないと判断し、深いため息と共に茂みの中から出た彼らの視界に、長い黒髪をなびかせる美しい人魚が映った。

その人魚はほかの人魚達は逃げたにも関わらずに、なぜかじっとスノーラを見ている。

「・・・」

「・・・」

「「「「「「・・・?」」」」」」

無言で見つめる人魚とスノーラに困惑する夜光達。

その時、人魚が口を開いた。

「・・・なぜここにいる。 スノーラ」

「・・・友人達とバカンスに来ただけだ。 お前こそなぜこんなところで真珠を集めている?」

「今夜この近くで、”海への祈り”があるから・・・まあ、お前には関係ないがな」

次の瞬間、人魚の目つきが鋭くなる。

「よくも堂々と私の前に顔を出せたものだな。 この裏切り者!」

人魚の罵声に、スノーラは冷静にこう返す。

「裏切ってなどいない! 私は私の意志で生きているだけだ」

次の瞬間、人魚の口から衝撃の言葉が発せられた。

「”人魚”である誇りを捨て、人間になり下がったお前の言葉など誰が聞くか!!」

「「「「「「!!!」」」」」」

初めてスノーラの正体を知った夜光達は言葉に詰まった。

「お前の言うことはわかる。

だが”私はもう人魚として生きていくことはできん”。 だからこうして人間として生きているが、人魚族である誇りは一度たりとも忘れたことはない!」

スノーラは強い口調で自分の気持ちをぶつけるが、人魚の表情は変わらない。

「黙れ!裏切り者! 二度と私の前に現れるな!!」

人魚はそう言い残すと、海の中へと消えていった。

「・・・ミーナ」

スノーラは、悲しみに彩られた表情で静かに海を見つめていた・・・


一旦その場を離れ、もといた浜辺に戻った夜光達は休憩用に張られたテントで水を飲んで一休みしていた。

スタッフの話によると、テントで休憩していたきな子と女神は「寄るところがある」と言い残してどこかへ行ってしまったとのこと。

「「「「「「・・・」」」」」」

先ほどのことが聞きづらいメンバーは何も言わなかったが、親友であるルドがたまらずスノーラに聞いた。

「なあ、スノーラ。 さっきの人魚はなんでお前のことをあんなに嫌っていたんだ?

つーか、そもそもあいつは誰なんだ?」

ルドの質問に対し、スノーラは重い口をゆっくりと開く。

「彼女はミーナといって、私の妹だ」

「妹!!」

「「「「「!!!」」」」」

その言葉に全員が驚きを隠せなかった。

「人魚族は海で生きる種族であるために、人間をはじめとする陸上の生き物に対して、心を開いていない者が多い。だから森で暮らすケンタウロスやエルフに比べると、人間に対する不信感が一層強い。

だから人間となって暮らしている私は、人魚族から見れば人間に寝返った裏切り者なんだ」

「でもオレ達には、”人間にならないといけない”訳があるんだから仕方ねぇだろ?」

ルドの言う”訳”が気になった夜光が口をはさむ。

「訳って、ホームに通うためか?」

「それもあるけど、一番の理由はやっぱり”薬の服用”だろうな」

「薬の服用?」

意味がわかっていない夜光にライカが説明する。

「あたし達異種族は、人間と違って薬とかウイルスに対する抵抗力が強いのよ。

だから病院で出される人間用の薬も飲み続けていたらすぐに効果がなくなってしまうの」

その先をルドが話す。

「それを防ぐために、オレ達のような異種族はパスリングで人間になって、抵抗力を一時的に弱くしているんだ」

「へぇ~。 ただの変身指輪じゃなかったのか」

説明がひとまず終わったところで、マナが気になることを言う。

「あの、人魚に戻って妹さんとお話できなかったんですか? パスリングを外せば元の姿に戻れるって聞きましたけど・・・」

マナの言う通り、パスリング外せば異種族は元の姿に戻ることができる。

そして再び付けるとまた人間になれる。

これは本人の意志でできることだ。

「・・・それはできない。 私はもう海へ戻ることはできないんだ」

「どうしてなんだ?」

ルドの質問に、スノーラは一瞬顔を歪ませた。

「・・・私には、”ひれがない”んだ」

ルドをはじめとして、全員が言葉を失った。

スノーラは、その理由をゆっくりと話し始めた。

「・・・私が9歳の頃、友人のところに遊びにいったミーナを両親と迎えに行っていました。

その時、”ハンター”の潜水艇に襲われました」

「ハンター?」

聞きなれない言葉にセリナが聞き返す。

「動物を狩る方々のことです。 最も私が出くわしたのは、異種族専門のハンターでしたがね」

「ちょっと待ってよ。 異種族を狩ることは法律で禁止されているんじゃなかった?」

ライカの問いかけに静かに頷くスノーラ。

「その通りだ。 だが世の中にはルールを破る者もいる。

ハンターたちは私と両親にいきなり魚雷を撃ってきた。

しかもその魚雷は爆発すると、周囲に鋭い矢を放つ特殊なものだった。

両親は体中を矢で貫かれてほぼ即死だった。

私も数発の矢に腕やひれを貫かれ、身動きできなくなってしまった。

だが幸か不幸か、魚雷の爆発で私は海藻の中に入りこむことができた。

そのおかげで、ハンター達に見つからずにすんだ。

海藻の隙間から、ハンターたちが死んだ両親を回収しているのが見えた。

私はどうすることもできずに、ただ見ていることしかできなかった。

あれほど、己の無力を呪ったことはない」

当時の悔しさを思い出したスノーラの手に力が入る。

「ハンター達が去った後、私は助けを呼ぶために、残った片腕で海底を這いつくばるように移動した。

それからしばらくして、近くにいた人魚が私を見つけてくれて、保護してくれた」

スノーラは落ち着きを取り戻すために、水を一杯飲んだ。

「だが、私のケガは人魚達ではどうすることもできなかったたため、人魚族の王が唯一信頼していた人間であるゴウマ国王に私の治療を頼んでくれました」

「・・・それで、その人魚は助からなったのか?」

夜光の訳のわからない質問に全員が呆気にとられた

「助かっていなければ、私はここにいません」

「・・・あっ! そうかお前の話だったな」

話をろくに聞いていない夜光をほうっておいてスノーラは続ける。

「どうにか一命は取り留めましたが、ひれは大量出血で壊死していました。

このままでは体全体が壊死してしまう可能性があるため、ひれを切断せざる終えませんでした」

スノーラは自分の足をなでながら、失ったひれを思い出していた。

「命は助かりましたが、私は人魚として海で暮らしていくことができなくなりました。

ひれがないからといって、海では車いすや杖のような補助器具は使えない。

私に残されたのは、ベッドの上で一生を終えるか、パスリングで人間となって生きていくかの2つだけでした。

だから、私は人間として生きていくことを決めました。両親からもらった命を無駄にしたくはありませんから」

「うぅぅぅ。つらかったんだねスノーラちゃん」

スノーラの話に感動したセリナが涙を流す。

「あの、セリナちゃん。 私の水着で涙を拭かないでくれる?」

マナのワンピースで涙を拭くというセリナらしいオチであった。

「スノーラ。 そのことを妹は知っているのか?」

ルドの質問に、静かに頷くスノーラ。

「人魚族の王を通して事情を説明してもらったが、ミーナは納得しなかった」

「なんでだよ」

「ミーナにとって、人間は両親を殺した敵だ。どんな事情があれ、憎い人間として生きていく私を許せなかったのだろう」

「そんな・・・」

ルドは胸を締め付けられるような感覚に襲われた。

この前まで、ルド自身も両親に障害のことを理解してもらえずに、ずっと苦しんでいた。

だからこそスノーラの気持ちが理解できるのだ。

そこへセリアがおそるおそるスノーラに尋ねる。

「あ・・・あの。こんな時にお聞きするのもなんなのですが、みっミーナさんがおっしゃっていた”海への祈り”とはなんなのですか?」

「人魚族の伝統で、海への感謝を込めた歌を人魚達全員で歌う儀式のことです」

「ようするに合唱会か」

身もふたもない夜光の解釈に、思わず顔を引きづるスノーラであった・・・


その頃、更衣室(女子側)の窓から、カメラで着替え中の女性を狙っている者がいた・・・

「きなさん。 やっぱりやめましょうよ。盗撮した写真を売り飛ばすなんて」

カメラを持ちながら涙ながらに訴える女神。

「・・・女神様。 あんたの使命はなんや?」

きな子の突然の質問に対し、戸惑いながらも

「え~と・・・心界のみなさんの笑顔を守ることです」

「せや。 そのためには何が必要や?」

「え~と、みなさんの優しい心?」

その瞬間、女神に強烈な蹴りを入れるきな子。

「ぎゃふん!!」

「ドアホ!! 何年女神やっとんねん!! 必要なもん言うたら金に決まっとるやろ!?

世の中金や! お金様や!」

倒れる女神に激しい言葉を投げるきな子。

「そっそんなことはありませんよ!!」

否定する女神を冷めた目で見るきな子。

「なら、優しい心だけで飯食えるんか? アストの修理とか維持とかできるんか?」

「そ・・・それは・・・」

言葉に詰まる女神に、きな子は容赦なく続ける。

「できひんやろ!? 金は力や! その力の前には優しい心なんて屁ぇや!」

「でっでも!」

「でもやない! ウチらは金の力を手にするために手段を選ぶ余裕はないねん!!わかったか!?」

そのきな子の大声が命取りだった。

「誰!? のぞき!?」

更衣室の女性達に気づかれた。

「どどどどうしましょう!?」

慌てる女神を横目に、きな子はどこからか黒い球を取り出し、「ドロンや!!」という言葉と共に煙が現れ、まるで忍者のように姿を消した。

「1人で逃げないでくださぁぁぁい!!」

女神もすぐさまその場から逃走した。


そこへ間の悪い男が現れた。

「よっしゃ!!釣りから抜け出せたで! いつまでもあんな男だらけのところにいられるかっちゅうねん!

さてと、まずは恒例ののぞきでも・・・」

更衣室へ向かう笑騎の前になぜか女性達が鬼のような顔で笑騎に迫ってきた。

「いた! やっぱりあなたがのぞき犯だったんですね!?」

「えっ!? ちょっと待ってぇな! 俺まだ何にもしてへんで!?」

「問答無用!! 掛かれぇぇぇ!!」

「ぎやぁぁぁ!!」

釣りでものぞきでも不運な笑騎であった・・・

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