第8話 ラジオジャック
自分の夢を同じ夢を追いかけている実習生達に否定されたセリナ。
絶望し、夢を諦めようとまで考えたが、夢を信じることの大切さを夜光からおしえられ、セリナは再び夢を追う決意をした。
しかし、実習最後の項目である自由放送の時間が過ぎてしまった、
諦めようとするセリナの腕を掴み、夜光は屋上から駆け出してしまった。
屋上を出た夜光は、セリナの案内で2人は自由放送のための収録室に向かった。
屋上から収録室までは、さほど離れていなかったおかげで、セリナを探してるスタッフとは会うことはなかった。
収録室に着くと幸い鍵が開いていたので、周囲を警戒しつつ中に入った。
これまた幸いが重なり、スタッフ達はまだセリナを探して局内を走り回っているようで、誰もいなかった。
自由放送は終わっているため、実習生もいない。
「・・・よし。 こんなもんか」
夜光は椅子やテーブルなどを運んでドアにバリケードを張って、外からの入室を防ぐと、収録に使われる機材をいじり始めた。
そこへセリナがおそるおそる尋ねた。
「ねぇ、お兄さん。収録室に来てどうするの?」
「決まってんだろ? 自由放送だ」
「えっ? でももう終わって・・・」
「”自由”放送なんだろ? ならいつやろうがこっちの勝手だ!」
屁理屈を並べてさらに機材をいじりまくる夜光
当然使い方など知らない素人の操作で、機材が上手く動くはずさない。
マイクの電源スイッチだけはわかったが、あちこちからブザーのような音が鳴り響く。
「だっダメだよ!勝手に放送なんてしちゃ」
『あーあーあー、ただいまマイクのテスト中!』
マイクに向かって声を出す夜光。その声はしっかり局内に響き渡る。
「あわわ・・・あっ!!」
あたふたする中、セリナはとんでもないことに気づいた。
マイクの横にあるランプに『全チャンネル』と表示されていた。
スマイル局には複数のラジオチャンネルがあり、収録機材には収録チャンネルを変更することができる機能がある。
夜光が偶然合わせたのは、自然災害等の緊急時に情報をまとめて伝えるための特殊なチャンネル。
複数の放送よりも1つの放送の方が情報が安定するために設置されている。
しかも、幸か不幸か、その特殊チャンネルは夜光がいじっている機材にだけあるものであった。
それを見た瞬間セリナの顔が一気に青ざめた。
「おっおっお兄さん!! そのマイク、スマイル局の全チャンネルにつながってるよ!!」
慌てるセリナとは対象的に夜光はまるで他人事のように「そうか」とだけ返して、マイクテストを続行させる。
「そうかじゃないよ!!局の人たちに怒られるよ!?」
夜光は一旦マイクの電源を切り、焦るセリナをマイクの前に業因に座らせた。
「なっ何?」
「何じゃねぇよ。自由放送やるんだろ?」
「・・・えっ? えー!! そんなの無理だよ!! これ全チャンネルだよ!? ここのラジオを聞いてる人たち全員が聞いてるんだよ!?」
「一気に名が広まるチャンスだと思えばいいじゃねぇか」
「いやいや!!これほとんど犯罪だよ!?」
「早くしねぇと面倒なのが来るぜ?・・・っと、噂をすればだ」
ダルそうに送る夜光の視線の先には収録室のドアの前で鬼のような形相を浮かべてドアを叩くスタッフ達であった。。
「おい!!君達!そこで何をしているんだ!!」
「今すぐ、出てきなさい!!」
収録室のドアは夜光が内側からバリケートを張っているで、スタッフ達は簡単には入って来ることはできない。
だがスタッフ達が人を集め、ドアに体当たりして無理やり開けようとしているため、ドアが開くのは時間の問題だろう。
だが夜光は、悪びれる様子すら見せずにスタッフ達を無視して「とりあえず座れ」とセリナを収録席に座らせる。
「あの・・・私・・・」
おどおどしながらマイクに向かうセリナに夜光は目を合わせてこう語り掛ける。
「難しく言葉を選ぼうとするから何もできずに失敗するんだ。
さっきも、お前は自分自身で感じたこと、思ったことをそのまま言葉にしていたからスラスラと話すことができたんだろ?」
「でっでも、それで聞いているみんなは楽しくなるのかな? つまらないと思う人もいるんじゃ・・・」
「そりゃ、中にはそう思う連中もいるだろうな。 でも評価ってのは所詮、1人1人の勝手な解釈に過ぎない。 そんなのいちいち気にしていたら、この先つらいだけだ。
お前が本気でラジオパーソナリティーになりたいのなら、自分への評価なんか勝手にさせて、ただただラジオを楽しめばいい」
「ラジオを・・・楽しむ・・・」
セリナにとってラジオパーソナリティーは、言葉でみんなに笑顔を届ける天使のような存在。
だからセリナは今まで、台本通りのことを言うことしかできなかった。
ラジオは公共の場であるため、ラジオパーソナリティーはゲストとのトークやニュースといった視聴者の聞きたいことを話すことは大切なことだ。
だがそれは、ラジオパーソナリティーが”視聴者に伝えたい”という気持ちがあるからこそできている。
ただ台本通りに言葉を発していれば良いわけではない。
マイクを通してラジオを聞いている視聴者達に自分の気持ちを伝える。
それこそがセリナにとって、本当に目指しているラジオパーソナリティーであるとセリナは思った。
「お兄さん、やってみるよ!」
セリナは決意し、電源をオンにしてマイクに向かって話し始めた。
『この放送を聞いているみなさん。突然こんな放送をしてしまってごめんなさい。
私はセリナ ウィルテットと言います。肩書きはこの国のお姫様ですけど・・・私はラジオパーソナリティーになるのが夢です。
王族の私がラジオパーソナリティーになりたいなんて、おかしいと思う人は多いと思いますが、私は本気です!
私は昔から世間知らずな女の子でした。
ラジオ局の実習でも失敗ばかりで、周りからはバカにされ、自分がとてもみじめに思えました。
やっぱり私なんかがラジオパーソナリティーになんてなれる訳がないと夢を諦めようとしました。
でもある人が大事なのは【伝えたい思い】だって教えてくれました。
私はずっと、台本通りのことをマイクに向かって話すことがラジオパーソナリティーの仕事だと思っていましたが、その人の言葉で初めて気付くことができました。
ラジオパーソナリティーの仕事は、ラジオと通して視聴者のみなさんに笑顔を届けることだって。
・・・私、ようやく自分が何になりたいかがわかったような気がします。
だから、私はこのまま夢を追い続けます。たとえ叶わない夢であっても後悔してくないんです!
今日はこの場をお借りして私の決意をみなさんに知ってもらいたかったので、急にこんな放送をしてしまいました。本当にごめんなさい。それと、この放送を聞いてくれたみなさん、どうもありがとうございました」
セリナはそのまま静かにマイクの電源をオフにした。
全てを出しきったような満足気な顔で、体中の嫌な気を空気共にゆっくりと吐き出した。
その時、隣に立っていた夜光が少し満足そうな顔で拍手をした。
「まあまあだな」
「えへへ。ありがとう」
その直後、20人掛かりでようやくドアが開いたスタッフ達が中に入ってきた。
「君!こんなことをして、いったいどういうつもりだ!!」
「セリナ姫! いくら王族といえどもこれは許されることではありませんよ!?」
スタッフ達は当然怒り、セリナは謝罪するものの、どこか嬉しそうな表情を浮かべていた。
スタッフに怒られていると、突然ドアを開ける音がした。
「セリナちゃん!!」
「お姉様!」
収録室に入ってきたのは、セリアとマナだった。
2人共かなり息が切れていた。どれほど必死に探していたのかよくわかる。
「セリアちゃん!マナちゃん!」
マナはセリナの姿を確認すると、セリナに抱き着き、喜びの涙を流した。
「・・・心配したんだよ?」
セリナも大粒の涙を流し、マナの背中に手を回す。
「ごめん・・・ごめんね? マナちゃん。こんなに心配させて」
2人は抱き合い、お互いの暖かさを感じあった。
セリアも姉の無事を確認し、ホッとしていた。
その様子を見てもなお、怒りが収まらないスタッフ達は「セリナ姫!! 話を聞いているのですか!?」と水を差す。
「もう、よさないか」
収録室の外からスタッフ達を静止する声がした。
全員の視線が外に向けられると、そこにいたのはトーンだった。
「こんな感動の場面に水を差すやつがあるか」
トーンの出現にセリナとマナも思わず離れて、直立姿勢を保つ。
「「とっトーンさん!」」
トーンはセリナに歩み寄ると、にこやかな顔でこう言った。
「セリナ君。 先ほどの放送聞いていたよ。 あんなにまっすぐで自分に正直な放送は私は初めて聞いたよ」
「あっありがとうございます!」
セリナは嬉しかった。放送を褒めてくれたこと。 自分を王族ではなく1人の人間として見てくれたことを。
そんな様子を見ても渋い顔のスタッフたち。
「しかし、トーンさん。あんな放送を勝手に流したら、リスナーから苦情の電話がきますよ!?」
そこへ、別のスタッフがやってきた。
「トーンさん!さきほどから局内の電話が鳴りっぱなしなんですが!」
その報告を聞いてスタッフたちは
「ほら、やっぱり!!」
「セリナ姫!どうしてくれるんですか!?」
しかし報告に来たスタッフはさらに驚きの報告をする。
「しかも、そのほとんどが『感動した!』、『セリナ姫!頑張ってください!』、『応援してます!』と、放送に好印象を持った視聴者ばかりなんです!」
その報告に全員驚いた。
「すごいよ! セリナちゃん!」
「おめでとうございます。お姉様」
ねぎらう2人に対し、セリナは一瞬、なにが起きたのがわからなかった。
セリナは思わず駆け出し、マナも後を追って走り出した。
セリナが来たのは、収録室のある階から1フロア下にある電話室だった。
この部屋は、視聴者からの声を聞くために何台もの電話が置かれている。
部屋の中の電話は全て鳴っていて、スタッフたちも対応に大忙しだった。
様子を見ているとセリナのそばにあった電話が鳴りだした。
セリナは何も考えず受話器を取った。
「はい。もしもし」
「あっ!スマイル局ですか?」
声から察するに相手は若い男性だった。
「聞きましたよ!!セリナ姫の放送。 最初はびっくりしましたけど、彼女のまっすぐな言葉に思わず応援したくなりましたよ。 俺、応援してますから夢を叶えてくださいって伝えてくれませんか?」
「・・・はっはい!」
セリナの目から止まらない涙がこぼれ落ち、言葉にならない嬉しさがこみ上げてきた。
自分の素直な気持ちがが人々の心に伝わったことが嬉しいからだ。
セリナは、視聴者との会話を終えると受話器を置いた。
そこへマナが部屋に入ってきた。
マナはセリナのことを思い、あえて時間を置いて入ったのだ。
「・・・マナちゃん!!」
セリナはマナに抱き着いた。その抱擁は嬉しさのあまり力強かった。
「痛いよ。セリナちゃん」
セリフとは裏腹にマナの顔は笑顔で目からはうっすらと涙が流れていた。
「君には彼女の”才能”がわかっていたようだね」
「何のことだ?」
夜光がぶっきらぼうに返すも、トーンは嫌な顔せず、にこやかに笑い出す。
横にいたセリアが「あっあの。お姉様の才能とは、なっなんですか?」とトーンに尋ねた。
コミュ障の彼女には質問1つでもかなり大変なのだが、姉を思う故に勇気を振り絞った。
それを察したのかトーンは丁寧に答える。
「おや、セリア姫はご存じではなかったのですか? 彼女の”人を引き付ける才能”に」
「人を引き付ける才能?」
「厳しいことを言いますが、セリナ君のトークは決して上手いものではありません。 ですが、それ以上に大切なものを、彼女は持っています」
そう言うとトーンは収録マイクを見つめながら言った。
「私の後輩にリサータという女性がいましてね? この局で10年間人気ナンバー1のパーソナリティーだった」
それは、セリナがパーソナリティーの夢のきっかけになった人気パーソナリティーだった。
「彼女も最初はトークが下手でね? 誰もがパーソナリティーには向いていないと思っていた。 実を言うと私もそう思っていたがね」
トーンは後ろの壁に飾ってある美しい黒髪の女性の写真を見た。
「しかし、彼女には人を引き付ける才能があった。 飾らない素直な言葉。明るく元気な声。彼女にはそれしかなかったが、それが最大の魅力でもあった」
「その写真の方はもしかして・・・」
気になってセリアが聞くと、トーンは写真を見たまま言った。
「リサータです。これは、彼女が初めて自分の番組を持った時に記念に撮った写真です」
「そのパーソナリティーは今もここにいるのか?」
夜光の質問にトーンは首を横に振った。
「彼女は4年前に結婚してね? それを機に引退したんだ」
リサータの話が終わると、ちょうどマナとセリナが戻ってきた。
セリアが「お姉様」と近づくと、セリナは笑顔でこう言った。
「セリアちゃん。心配掛けてごめんね。私、もう自分の夢を諦めないたりしないから!」
「・・・はい。応援しています」
そして、セリナはトーンに向かって頭を下げる。
「トーンさん。お騒がせしてすみませんでした」
しかし、トーンは笑顔でこう返す。
「謝ることはない。 たまにはこういうハプニング放送も悪くはないからね」
照れながら自分の頭を撫でるセリナに「照れるところじゃないよ」とマナのツッコミがひそかに炸裂した。
トーンはここでセリナに一番伝えたいことを言った。
「セリナ君。これだけは覚えておいてくれ。パーソナリティーの価値を決めるのは”自分”ではなく”視聴者”達だと」
「・・・はい!」
セリナは心にその言葉を刻み付けた。
騒動が終わり、みんなが胸を撫で下ろした時だった。
「なっ何!? 地震!?」
突如、爆音と共にラジオ局が大きく揺れた。
思わずしりもちをついたセリナはそう言うが、その答えは局のスピーカーから流れた。
『きっ緊急放送をお伝えします!! 先ほど第3倉庫で原因不明の爆発が起きました!! 局内にいる方々は、至急非難して下さい!!』
それは夜光にとって、戦いが始まるゴングであった。
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