人生をともに……

 今日は真面目な話。

 子供は夫全員の間に少なくとも1人はいる。


 だが、これだけ人数が多いと、会わなくても毎日が過ぎてゆく。

 

 ということが起きる。


 基本的にそばによくいるのは、仕事を休止している、光命ひかりのみことと孔明。

 あとは、夏休み中の教師たち。焉貴これたか月命るなすのみこと、張飛。

 それから、武道家の夕霧命ゆうぎりのみこと。彼は家の敷地内にいるが、修業場にいて、他の人が呼びに行かない限り、いつまでも武術を続けるほどで、ほとんど会わない。

 今は育児休暇中の貴増参たかふみ。子供のために休んでいるのであって、妻のためには休んでいない。ということで、彼にもほとんど会わない。


 あとの3人は、まず会わない。


 蓮。コンサートツアーで3ヶ月も家を空ける時もある。今は違うが、打ち合わせで、泊まりがけは多々あり。


 独健。本編でもあったが、私が呼ばない限り、彼は来ない。他の夫たちと私に気を使って、自分の都合からは動いてこない。


 それでも、このふたりはなんとか会っていた。

 ただ1人、まったくと言っていいほど、会わない夫がいた。

 それは、自営業の明引呼あきひこである。


 夜寝ようとすると、


「帰ったぜ」

「おかえり」


 ただそれだけ。それも1ヶ月に1回あればいい方だ。

 疲れているみたいで、すぐに他の部屋へ行ってしまう。何時に仕事に出かけているのかも知らない。そんな仲だった。


 結婚して以来、仕事を休んでいるのを見ていない。

 先々週だっただろうか?


 一緒に眠って、朝早く目が覚めると、


「おはよう」

「……あぁ、おはよう」


 そのまますぐにまた眠ってしまい、1時間後に目を覚ますと、


「行ってくるぜ」

「行ってらっしゃい」


 え〜! こんなに早く家出てたの!?


 びっくりして、それから心配になった。


 前はもう少し仕事に余裕があったよね?

 忙しくなった?


 考えてみれば、合点がいった。

 陛下のご意思で、バイセクシャルの複数婚を世に広めたい。そのために、全員メディアに名前も顔も出ている。


 明引呼はデパートなどにしか仕出していないブランドの農家だ。帝国で暮らす人々としてはこう思う。


 陛下が推す人。

 どんな商品なんだろう?

 買ってみよう。


 になる。すると、明引呼を始めとする農場の人間は、


 陛下の名に恥じないように、品質を落とさず、上げる。


 になる。注文数は増える一方で、従業員も増えて、社長の明引呼としては、寝るだけに家に帰ってくることになってしまったというわけだ。


 物々交換が当たり前の世界だ。もっと大切なことが他にもある。


 何とかしないと……。


 考えてみた。だが、私は無力で、他力本願だった。


 PCオタクの蓮に頼んで、在宅勤務に変更。

 ビジネス戦略に長けている孔明に頼んで、業務の短縮化。


 さすがのふたりで、たった1日で改善。

 1日目は、16時半に仕事は終了。


 久々に、明引呼とは話をして、することはして、私のベッドで彼は1人で、そのまま眠った。


 やっぱり疲れてたんだね。うんうん、眠っちゃうくらいだから……。


 本編をPCでパチパチ打っていると、バタンと大きな音がして、振り返ると、明引呼が壁をはうようにして、入り口にしがみついているのを見た。


「どうした――」


 崩れるように倒れて、両膝を打ち付けて、座り込んだ。

 死がない。病気がない。気絶することはまず起きない。それなのに、気を失って……。


 それでも、私は無力だ。手を貸せない。


「誰かっ! 誰かっ!」


 真っ先に、焉貴がやってきた。


「何? 明?」


 すぐに何人も来て、


「医者、呼んで」


 過労で、3日間、安静。

 それでも、私には看病もできない。無力だ。


 夫たちが1時間ごとに交代で、看病をしていた。私の部屋に運んだから、自分が眠る時に思った。


 明引呼の寝ている顔を初めて見た。


 と。


 もっと早く気づいてたら、違ったのかもしれない。


 後悔はいつもあとからやってくる。

 孔明がこう言った。


「ボクはこう考える。誰かは倒れる。そう予測してたら、後悔も自分を責めることもない。そうでしょ?」


 大先生は観点が違う。


 私の部屋に明引呼はいたが、2日目からは寝ているのが退屈になり、たわいのない会話をしたり、私のそばで眠ったりだった。


 もう仕事に復帰したが、孔明と考えた末、15時で仕事は終了するようになっている。だから、明引呼とはよく会うようになった。


 今日は一緒に、お寿司を食べに行った。

 そばに座っているが、私は他のことに気を取られ、彼とは話さないまま時は過ぎてゆく。ふと彼の存在を思い出して、


 彼をほったらかして、私は他の人と話してばかりで――


 考えている途中で、明引呼のしゃがれた声が響いた。


「話さなくてもよ。てめぇの考えてっことも、思ってことも、こっちに全部筒抜けなんだよな」


 気づかされる。私は時々、どの夫でもほったらかしにして、別のことに集中してしまう。だが、彼らは全員、そうやって私をいつも見ている。


「てめぇの生きてる人生を一緒に生きてんだよ――」


 人は普通、言葉で伝えるしか方法がない。心の全てを相手に伝えることは困難だ。だが、彼らは私と完全に自身を重ね合わせて、私の人生をともに生きている。


「――守護するっつうのは、こういうことなんだろうな」


 そう、私はいつも彼らに守られている。

 どんなことからも守られている。


 初めて言ったのが、明引呼なだけで。みんなの姿と話したことが頭の中をよぎると、


 彼らの話は、私の気持ちも含めて、常にそこに思いやりがあった。

 必要な時に、必要な人がそばに来ていた。


 幸せな気持ちでいっぱいになり、私は涙がこぼれるのだった。


 2019年7月15日

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