第18話A-9伝記作家
「ソロは何してんの?」
何をしているように見える主人には。
ペラッ
「読書かイイな」
ペラッ
わかっているならなぜ聞いた。
私は主人の作風を理解しようと一心不乱にページをめくっていた。
つまり読書をしていたのだ。
ペラッ
こらミャウ。まだ読んでいるんだやめろ。
伝記の類も手がける主人はたまに工夫を入れる。
歴史上の人物が男女逆にしてあったり、正史の裏を敢えて書いたりして読者の気を惹いている。
_やはり主人はスゴい。
誰もやったことのないことを家族に理解されないまま、やってのけるというのは誰にでもできることではない。
全巻読破しそうな勢いで読んでいると、
「ソロ」
「みゃぅ」
違う。呼ばれたのは私だ。
鼻先にしっぽを振るな!うっとおしい。
ミャウは主人の方を向いて私にしっぽを向けていた。
ミャウのしっぽの毛先がちょくちょく鼻に入る。
こら、何の嫌がらせだ。
クフンッ
変なくしゃみが出てしまった。
「ミャウ。ダメでしょソロが迷惑がってる」
「ミャゥ」
「うん。そうだね。でもダメだよ」
またミャウが何か言っているのか?
「うん。ミャウがね?」
ガリッ
「痛い痛い!わかったよ言わないから」
何も噛まなくても、、
それはお前が悪い。
言ったそばから本人にバラしてはミャウが怒るのも無理はない。
「まだ言ってないのに」
「あぁコラコラそこで爪砥がないで」
あれは本気だぞ?
何を聞いたか知らないがちゃんと謝っておけ。
「ミャウ?」
「ミャ?」
目が怖いな。
殺意が沸いているぞ。
「ごめんなさい。もうしません」
かつてないほどしおらしく、
クミは猫に向かって誠心誠意謝罪した。
本当にこの家に入ったものは一体どこまで動物以下に成り下がるのだろうか。
心配でならない。
ところで今日は何待ちなのかを話していなかった。
この度主人の受賞式があるとの報せを受け、このほど山から下りたばかりだった。
で、実は今実家の主人の部屋なのだ。
その主人の部屋の柱でミャウが爪を砥いでしまった。
さっさとクミが謝らなかったばっかりに。
「ごめんなさい」
プライドが低めに設定でもされているんだろうか?
呆れるほどに腰が低い。
_ホント人間としてどうなのよ。
それはそうと、ここに来るとよくわかるのは受賞した賞状の多さだ。
普通この手のものは天井付近に何枚かある程度だが主人は違う。
これでもかと目の仇にするような枚数壁一面に張り巡らされている。
最早賞状が壁なのだ。
これで全部じゃないとかもうイジメだろ。
「そんなこと言ったって母さん!」
始まったか。
いつもなのだ。
主人は絶対にこの家に帰っては来ない。
それは家督を継ぐとかそういった話があるからではないのだ。
主人は
「わかったよ。もう二度と仕送りはしない。
この家とも縁を切るから」
母親との相性が悪いのだ。
「ソロ。クミ帰るよ?」
「ミャゥ」
「あぁミャウもね」
流石に気になった私は少しだけ振り向くと、母親は私達に背を向けていた。
わかりあえない親子は背を向けたまま、その一歩を踏み出した。
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