名前はソロ-母親に創作活動を全否定されたので犬を連れて山に籠ってたら、彼女まで来たので仕方ないからキャッキャッウフフしておきます🐾-

アキヅキ

ソロリック・エデューソン Aルート

第1話その名はA

 私の名前はソロ。

 ソロリック・エデューソンだ。

 山奥の洋館に住んでいる伝記作家エルリック・エデューソン氏に飼われている犬だ。


「わん」


 深い毛色の中型犬で体毛はなかなかに毛深い。


 らしい。


 というのも自分で鏡を見たことはまだない。

 そもそも鏡が何なのかを私は知らない。


 ではなぜその存在を知っているか?


 主人に教えてもらった。


 身振り手振りで。


 わかりにくいので、私がそっぽを向くと、


「あ、わかりにくいよね今度持ってくるよ」


 持っているなら最初からそれを持ってこい。


「うん。ごめん」


 私が頭にお手をすると主人はそのまま項垂れた。


 大体どんなもので何をするものかもわからないのに身振り手振りでは伝わらないだろう。

 作家だというのにその表現力で大丈夫か?


「うん。ごめん」


 犬に向かって頭を下げるなんて人としてどうかと思った私は「手」を退けて


「くぅん」


 甘えたフリをする。

「ありがとう。優しいねソロは」

 チョロい。


 尻尾に気づかないのか。


 動いてないんだぞ?


 機嫌悪いんだぞ!


 気づけ!


 それでも飼い主か!


 すまない取り乱して。


 私はこの家で飼われている犬であり、主人の執事的なこともさせて貰っている室内犬である。


 まぁそうじゃなきゃ主人は人知れず逝くかもしれない。


 心配で眠れない日はそばで見守るためにデスクに向かう主人をじっと見ているのだが、


 おもむろに立ち上がった主人は


「そうか。じゃあ私は」


 わりと大きな声でセリフを話す。


 そのあと「いや、これじゃないな」

と書き直しなるほどそれならと誰かと相談しているようなことを呟き、


「その時は私に任せて」


 とメスのような声で喋った。


 いや女の子というんだったか。


 主人の声帯は一体いくつあるのか?


 確めてみよう。


「わぅ」


「こ、こらソロ駄目だよ」


 ダメと言いながら笑っているのは何故か皆目検討もつかなかったが、構わず私は甘えた声でじゃれつき喉を肉球で擦り確認。


_バカな。一つしかない。


 どうやってあんな、、


「離して」


_だ、誰だ姿を現せ!

「大丈夫だよ」


_しゅ、主人か。


 脅かさないでくれ。


パチンッ


 そのあとしばらく暖炉の木材が爆ぜるまでゆっくり待っていた。


 すると小さな音でバイオリンの演奏?違うなこれは作り物の音だ。


 なんと言うんだったか、CD音源?


 しかし、こんな悲劇的な音で先程のセリフが出るような話が、


「違うよ?ソロこれは作業用。

イメージじゃない」


 ?何だって?イメージ浮かべるのに聴くものではないのか?


「そうなんだけど、違うんだ」


 ???

 説明を頼む。


「ソロが知ってるのは作品の雰囲気を膨らませるために流す音、今流しているのは作者の気分を上げる音、つまり音楽である必要はないんだ。わかる?」


 全然。まぁ主人のやっていることを私が理解することはきっとないことを改めて理解できた。


コンコン


「こんな時間に誰かな」

「ヴヴ」


 主人ここは山奥だ!


 人が来るはずがない。


 出るな!


ガチャ


「やぁキミかぁ久しぶりだね?」

 何でフツーに開けるんだ。

 少しは疑え!


 来訪者は女の子だった。

 歳はたぶん主人と近い。


 黄色いカーディガンに白いレースのブラウス、青いスカートを身につけていた。

 女の子はもじもじしながらスカートをつまみ、

「どうしてここが「お母さんから聞いたの!」

 女の子は被せてきた。

 思わず私は女の子の足を踏んだ。

 ちょっとは人の話を聞こうか?

「エリィのお母さんがエリィならここにいると思うって!」


 エリィというのは主人のことだろう。

 女の子みたいな略し方するなよ。

 主人にはエルリックという立派な名前が、、、


 地図を貰ったらしくそれを見てきたという。

 ここが都市部ならそれで納得もできただろうが、ここは山奥だ。

 それもなかなかに奥まった。

 それに何より、主人は「お母さん」を嫌っている。


 見つからないようにここにアトリエを建てていた。

 そして、

「ここに来るまで服は汚れなかったの?」


 汚れていないのだ。


 険しい道を泥一つつけずに進むのは到底できない。

 一体お前は何者だ?


「ヴヴ」


 あ、主人私の頭をそんな、、撫で、撫でて下さい。もっとお願いします!


「それで今日は何をしに?」


 主人はメロメロになった私を玄関先に放って女の子を中に入れ、紅茶を出してあげていた。


 お茶菓子は勿論主人の手作りだった。


「ソロも食べるかい?」


 私が欲しいと思っているのをなんでわかったんだろう。


「ヨダレ」


 ごめんなさいごめんなさい。


 めっちゃ恥ずかしかった。


「こんな山奥に一人で女の子が歩いていたら

危ないよ?」


 何で僕に電話しないの?


「圏外だった」


 ポツリと女の子は言って、


「そんなはずは、、電池切れてるわ」


 私にはよくわからないのだが、その電話は無線で山奥から繋がるものなのか?


「そこは繋がるようにした」


 彼女の分も?


 あ、という顔をした主人は彼女に覆い被さるような勢いで迫り、


「ちょ、ちょっと!「スマホ貸して」


 赤い顔で嫌がりながらも下がらない彼女は簡単にスマホを取られてしまう。


 そのスマホにぱぱっと指を躍らせ何かの設定を変えていた。


 何したかは知らない犬に聞くな。


「これで僕に電話できるよ」


 あと僕の居場所を探知できるようにしておいた。


 !いいのか?こんなどこの誰とも知れぬ輩に!


ぽんぽん


 あ、しゅ、しゅじぃん。

「いいんだよ。彼女は僕の恋人だから」

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