ベンジョの落書き
@medaka2121
ワンドロ① (お題 兄/猫/酒)
はてさて、今は朝であろうか、夜であろうか。はたまた、此処は何処で、私は誰だ。あぁ、床が硬い。い草の香りが鼻先をかすめる。私はきっと、畳の上に横になっているのであろう。
微睡み、ぐるりぐるりと思考を巡らせていると、襖が勢い良く開かれる音に加え、大層聞き覚えのある、鈴の音のような声に、現実へと引き戻された。
「にいさま、お兄様。もうお昼ですわ。起きてくださいませ。…あら、お兄様ったら。」
眠い目を擦りながら視界に入ってきたのは、綺麗に整った、たいそう色白な顔の眉間に皺を寄せ、困り気な表情を見せる妹のナオミであった。
「何をそんな顔をしているんだ、ナオミ。」
「お兄様。また一献傾けた後、一糸纏わずに床でお休みになられていたのですね。どうか気をつけてくださいませ。また、お風邪を召されます。只でさえお兄様は元来虚弱体質なのです。ご自愛なさってくださいませ。」
またこれだ。私の妹は姿形こそ上等で、其れこそ、立てば芍薬、座れば牡丹。歩く姿は百合の花。といった言葉がしっくりと当てはまる女であるが、如何せん小言が多い。
「もうその言葉は聞き飽きた。お前も小言ばかり言っていると嫁の貰い手が居なくなってしまうよ。」
「まあ、酷いお方。お兄様の身を案じているだけですのに。それに、お嫁ならいいのです、貰い手が居なくとも。大好きな猫と結婚します。」
時を見計らったかのように、どこからか、見覚えの無い猫が軽やかな足取りで部屋へと入ってくる。
「おやまあ、お前と結婚しようかしら。」
「馬鹿いえ。こら、部屋が散らかっているのだから入ってきてはいけないよ。あぁ、そら見たことか、言わんこっちゃあ無い。」
野良猫は床に置かれた灰皿を蹴飛ばしひっくり返すと、ばつがわるそうに、とてとてと何処かへと消えていった。
一人ぼっちとなった部屋で、私は再度妹との会話を再開する。
「さて、今日は何をしようか、ナオミ。」
私がそう言ってやると、黒い額縁の中のナオミは、先程までの困り顔もよそに、いつもと変わらず、嬉しそうに私へと微笑みかけた。
ベンジョの落書き @medaka2121
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