きらい
り
きらい
「『弱い人ほど相手を許せない。人を許すというのは、強い人だからできるのだ。』…うん!かっこいいなあ、ガンディーって…!」
彼女の恍惚とした顔は西日を浴びている。彼女は古びたマハトマ・ガンディーの書物を、子猫を撫でるように丁寧に撫でた。
「ねえ勝手に話変えないで。だからさ、あなたって人は本当に自分以外のことが考えられないのよ。もっとちゃんと自分の中に言葉を巡らせて、脳に届けて、よし!ってなって、それから言葉を吐いてほしいの。すぐにバカだとか愚かだとか、あなたが言えることじゃないのよ。ほんと、あなたのために言ってるの!」
教室には私と彼女の2人だけだった。生ぬるい風が頬を撫でて、教室を出ていく。
彼女と私の間には机がひとつ隔ててある。彼女はその机を人差し指でトントンと叩きながら口を開いた。
「何?なんの話?私はそんなバカなやつじゃないわ。私はもっと…そうよ。もっと頭がいいしみんなのことなんて見てたらわかるわ。KYみたいに言わないで。…ねえ、そんなことよりやっぱり先人の言葉っていいわあ。沁みるのよねえ、心の内に?って言うのかしら」
クスクスと笑う彼女をまるで赤子のようだと思った。純粋。無垢。それでいて悪魔。
彼女の方から相談があると放課後呼び出したくせに、結局最後には彼女は彼女自身に酔う。「最近嫌われてる気がするのよね」なんて、話し始めの悲しそうな顔はどこに行ったのか、今となっては傲慢さをひけらかしている。
「そう…そうね。んーもういいの?解決?」
ため息しか出ない。
「ん?なんかまあいいや!私はみんなのためにダメなこと言ってあげてるのに、それにも感謝できないみんなが悪くない?私悪くないわ!しかも私にはあなたがいるし!」
わるくない。
「そうだね。」
そう言って笑いあってから私たちは教室を後にした。背中に汗が流れた。『あなたのため』なんて、もう使いたくない。
きらい り @rinrindesita
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