晴明神社にて式鬼神バトる その3
「あの、道満さんは」
流石に幼女と戦うのは気が引けて、もう一人(一匹じゃなくて一人の時点でおかしいのだが)の式鬼神の名前を言ってみた。
「あ゛?」
「いえ何でもありません」
めっちゃ怒ってる。
清明めっちゃ怒ってる。
名前出しただけでこの怒り様。
なぜ式鬼神にした。
むしろ嫌いだから式鬼神にしたのか。
仕方ない、この幼女と戦わねばならない運命らしい。
「うふふ、こんな見た目だからって手加減したら痛い目にあうわよ」
アワビちゃんは目を細め挑発的なことを言う。
まあ見た目があてにならないというのは先程痛いほど味わった。
「君は一人で戦ってもいいし、鬼助と二人で協力しても良い。準備は良いかな」
清明がボク達を見ながら言う。
あまり広くない空間で、鬼助が元の姿でジャンプしたら天井に手が届きそうな高さだがなぜかとても相手との距離を感じる。
こいつ、出来る……。
「「ご主人様、こんな鬼っ子オイラだけであっという間に倒せちゃうぜ」」
鬼助が軽口を叩く。
言ってもお前と同じくらいの背格好だぞ。
いくら四人いるからと言っても、お前吹けば飛ぶような存在だろ。
あまりアテには出来ないなと思いながら、清明を見て首を縦に振る。
「よし、ではバトル開始だ! ――エキサイティンッ!」
謎の合図を出して戦いが始まった。
って、めっちゃ英語じゃん!
時代背景からしておかしいだろ。
「異世界バトル、いやぁ良い響きだ」
何故か異世界にアクセントを置いて強調してくる。
わかったわかった、ここは異世界ですよ。はいはい。
「はぁぁぁぁぁああ!!!」
急にアワビちゃんはどこかの戦闘民族のような雄叫びを上げ、周囲に風をまとい始める。
バカな、戦闘力がどんどん上がっていくだと!?
「あああああぁぁぁ!!!」
その勢いはますます強くなり、小さな空間はあっという間に台風が通り過ぎた後のように物が散乱し始めた。
清明は「ふっ、あいついきなりフルパワーで来たか」みたいな笑みを浮かべている。どんな笑みだよって言われてもホントにそうとしか言いようのない笑い方だから困る。
というか、何この展開。
もしかして、アワビちゃんが本当の当たりキャラだったってことなのか。
「「ま、まさか奴が伝説の
くそう、日曜の国民的アニメみたいな名前のくせにやってることは超絶バトルかよ。
そもそも最初のタケノコみたいな名前のところが作ってるアニメのキャラクターっぽい雰囲気醸し出してたのはなんだ。ブラフかよ。
いや、あの中東っぽいジャケットはフュージョンした後のキャラの服装のフラグってことか!?
雑すぎるだろっ!
そんなんでここまで推理できたら1パーセントの惨劇に挑んでも正解導き出せるだろ。
どうでも良いことばかり頭に浮かんでくる。
これが走馬灯ってやつだとしたら、ボクの人生はあまりに薄っぺらすぎやしないだろうか。
ちょっと自己嫌悪。
なんで異世界に来て異世界転生しそうな感じになるのさ。
流石に早えーよ。
「「これは正面から立ち向かってもオイラにゃ勝ち目がねーぜ……」」
絶望を絵に描いたような表情を浮かべながら鬼助が呟く。
「そんなに強いの?」
「「ヤツが拳を地に叩きつければ大地が割れ、腕を回せば嵐が起きる。その雄叫びは平城京まで届くと言われているぜ」」
「なんでその役目をキミが担わなかったんだ」
「「うぐっ!」」
しまった、つい。
結構ショックだったらしく、四人は四つん這いになりながら立ち直れない様子でその場に倒れ込む。
自分の使い魔なんだからもっと鼓舞しなきゃダメじゃないか。
少し考えて、ある仮説にたどり着いた。
「ねえ、あの娘の後ろにあるお札、あれを地面から剥がせばもしかして何とかなったりする?」
アワビちゃんも鬼助も、実体化している先には光の線のようなものが出ていて、それを辿ると地面に置かれているお札に繋がっている。
道満は清明にお札を剥がされて消えてしまったのだから、もしやと思い尋ねてみた。
「「なるほど、その手があったか。やるな、ご主人様。そうだ、式札からの霊力でオイラ達は実体化しているし、式札は地面に書かれた五芒星の魔法陣から力を得ている。だから式札を引き離せたら消えるはずさ」」
「よし、それじゃどちらかが囮になって、あの娘の気を引いている内にお札を剥がそう」
「「ま、まさか囮役をこんな幼い子供にやらせるとか言わないよな?」」
こんな時だけ子供のフリかよ。
逆にずる賢いじゃないか。
「……式鬼神がお札に干渉できるの?」
「「無理」」
「はい決定」
「「ああーっ!! クッソーー!!」」
頭を抱える四人のチビども。
いや、そりゃそうでしょうね。
このご都合主義的展開は予測できた。
「でも、本当に大丈夫?」
一応見た目は小さな子鬼なのでちょっと罪悪感がある。
「「なーに、いざとなったら小さく散ればいいから
むしろ囮として適役じゃねーか。
そう言いかけた言葉をぐっと飲み込んだ。
「「それよりご主人さまの方がそんな貧相な体で大丈夫かよ」」
せめて華奢とか、もう少し言い様はあるだろう。
しかし事実なので言い返せない。
平安の世でも矮小な存在だったのだ。
「「よし、いくぜっ!!」」
鬼助達はアワビちゃんのお札と反対方向に駆け出し、相手の注意を引く。
よく見てなかったけど、アワビちゃんはもはやアワビちゃんと呼ぶのも憚られるほど筋骨隆々の鬼と化していた。
ブロッコリーみたいな名前の……じゃなくて、カリフラワーみたいな髪の毛も逆立っていて毛先までピンピンに尖っている。
鬼のような形相ってよく言うけど、本当の鬼を見たことのある人間にしかそれを例える権利はないと思う。
瞳孔開いてるっていうか、白すぎて逆に黒く見えるっていうの、そんな感じ。
ボクはまだ動揺を隠せていない。
しかし、やらねば。
鬼助の断末魔を聞こえないふりしながら、お札へと近づく。
途中で邪魔が入ったりするのかと思ったがそんなことはなかった。
清明もこちらを見て薄ら笑みを浮かべている。
なんだ、あの余裕。
その答えはすぐに出た。
「ふんっ……! ……っ、はぁ、はぁ……。ぐぬぬっ!」
このお札、磁石かってくらい地面にへばりついてる。
もっとシールみたいにペリペリっと剥がれるイメージだったから予想外過ぎて混乱している。
さっき清明簡単にめくったじゃない。
さっき清明簡単にめくったじゃない!!
そんな心の叫びも虚しく、遠方では鬼助の鎮痛な叫びが木霊する。
「くっ、どうしたら……」
考えるんだ。
式鬼神は、いやそもそも陰陽師とかこの時代は
加えてここは異世界。
きっと、ボクの思い通りにコトが運ぶ世界。
……あんまりそうだった試しはないけど。
「ああ」
ボクは思い出した。
似たような自体に陥った時、どうやって切り抜けたかを。
ふと鬼助に向けて投げつけたメモ帳が視界に入る。
メモ帳は手放したが、ペンはまだボクの手の中にある。
ボクはポケットからペンを取り出し、構える。
そして、お札に向かって手を振り下ろし、大きく「×」を描いてやった。
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