コラテラル・ホープ
百谷シカ
序───より糸
枯葉を踏みしめ息を震わせる二人に、かつて抱いた友愛と、忘れ果てたかに思えた熱情の火種が小さく爆ぜたのを身の内で感じた。
閑静な住宅地の隙間、影に隠れるように残った小さな公園の遊具で、若き主が鎖に手をかけ同じものを見定めている。
「明日の夕刻までに届けてくれ」
「わかった」
そう言って、一人がもう一人へと、幻の荷を渡す。
二十年前の再現は短く、彼らは言葉を失い、ただ白い息を途切れがちな外灯の下に吐き出している。
「終わり?」
幼稚な口調で主が問いかけた。
二人は吐息と、頷く事で答えた。
砂を蹴り、遊具を後ろへ弾ませてから、主は自らの足で立ち老いた二人に歩み寄る。
「たったそれだけ」
玩具の魅力を確かめるような、小さな笑いを洩らす。
「随分、簡単だったんだな──
私の名を聞いた刹那、二人は息を止めたかに見えた。
主を越え歩み出て、其々に小瓶を渡す。主を背に微かな笑みを刻むこの唇が、二人の目に映るだろうか。
主の口から告げられずとも、闇に溶け込み囲む数多の銃口がわからぬ二人ではない。
「優しい夢を」
この挨拶は二人に全てを伝えるはずだ。
死の眠りへと導く甘美な酒を、この私が、与えるという事を。
静かに崩れ落ちるかつての友へ、最期の別れを告げる。
「おやすみなさい」
流れ去る砂のように、また一人、もう一人、夢の欠片が消えてゆく。
主が落ちた小瓶を拾い上げ、私の手を取り握らせた。
「始まるよ」
朧な月に息を潜め、可憐に笑う。
儚い幻を探し求め続ける、幼い悪魔が。
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