第1話 一人と一振り
慶永6年・9月。あの大霊災から一週間が経過した。
傷跡は癒えず。霊魔は相も変わらず夕京を跋扈する。
多くの刀は主を亡くし、多くの花守は刀を折った。
――五家が一、山郷の屋敷にて。
此処にも、そんな片割れを失った刀と花守が一組在った。
「……探したぞ、《鳥兜》。現役の霊刀がよもやこんな場所にしまわれていようとはな。」
黴臭い蔵に光が差し込み、精悍な顔つきの男が顔を覗かせる。
彼は、蔵の片隅に無造作に立てかけられていた刀に話しかけていた。
男が話しかけると、蔵の天井より、すーっと人影が落ちてくる。
『久しいな高鹿。お前こそ、こんな時分に持ち場を離れていていいのか?』
まるで水面に浮くように、無気力に宙を漂っているソレは、少年なのか少女なのかもはっきりしない、鳥の面を付けた童だった。
「先の戦いでな、《紅葉》が折れてしまった。残念ながら今の俺では足手まといだ。」
『……紅葉がか。それは残念だな。お前と違って、話の分かる良い奴だったのに。』
無気力な姿勢は崩さないが、声には確かに哀悼の念が滲んでいた。
「だが、立ち止まっているわけにもいかん。今は一人でも戦える者が必要なのだ。」
反対に、男の声は力強いものだった。愛刀を失くしたからと言って、立ち止まる理由にはならないのだと。
『あー、高鹿。お前が何をしに来たのかはわかったよ。悪いけどぼくは……』
「そこでだ。」
少年の言葉を遮るように、男は更に語気を強める。
「《鳥兜》、亡き山郷早馬に代わり俺を主として契約を結んでほしい。」
その言葉を聞き、少年はため息とともに面を外す。
自分がどれだけ、不快な表情を浮かべているかを見せつけるかのように。
『……高鹿、ぼくはお前のそういうところが嫌いだよ。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます