ひよこ温泉で一人前になるのは何が必要?

ちびまるフォイ

まだまだお前はひよこのまま

晴れてひよこ温泉に就職できた。

これからは頑張って働くぞ。


「それで僕はこれからどんな仕事をすればいいですか?

 お風呂の掃除でしょうか。それともお料理ですか?」


「いや君は番頭だよ」

「番頭!?」


「男湯女湯の境にいるだろう。あの番頭」


「い……いきなり荷が重いですよ!!」


「これが仕事の中では楽な方なんだよ?」

「そんな!?」


これが楽な仕事なものか。

ひよこ温泉の客は多くがひよこ。


その雄雌を区別してちゃんと仕切らなくちゃ番頭の仕事は勤まらない。


できもしない仕事を押し付けて辞めさせようという

ひよこパラハラなのかとも勘ぐったがこんなところでは諦められない。


「やってやりますよ! 任せてください!」


それから僕はひよこ休暇を取ると資格所得のために勉強を重ねた。

「ひよこ鑑定士」になるためには生半可な修練では足りない。


山にこもってひたすらひよことは何かと向き合い続け、

毎日欠かさずひよこの雌雄を区別し続けた。


やがて東京おみやげを買ってくる頃にはひよこ一級鑑定士として胸を晴れるようになった。


「ただいま戻りました。もう完璧です」

「おおそうか。それじゃ番頭を頼むよ」

「任せてください」


やや高い番頭の台座に座ると、のれんをくぐってひよこが来店してきた。


「いらっしゃいませ」


さっそく雌雄を区別するために――。


「し、しまった! お客様に触ることなどできない!!」


一級ひよこ鑑定士として完全無欠で正確無比な技術があったとしても

それはあくまでも触って判断するにつきてしまう。


お客様のひよこを触ることなんてできない。


「なんてことだ! 僕は自分の技術を磨くばかりにやっきになって、

 番頭として求められる本当の技術を見誤っていた!!」


「お、おい……」


「もう一度最初から修行してきます!!」


ひよこ温泉の窓口を任されている以上は半端な仕事はできない。

今度は滝に打たれながら必死に自分のひよこ技術を磨き続けた。


いくつもの歳月を経てついにひよこ鑑定士として開眼した。


「ただいま戻りました……」


「ず、ずいぶん顔つきが変わったじゃないか」


「ええ、それはもう。今までの僕のようなひよっこじゃないんですよ。

 これからはどんなひよこでも雄雌完璧に区別できる。そう、目(アイ)フォンならね」


長年の修行の末に体得した「目フォン」により、

ひよこを触ることなく見ただけで体の内部構造から家族構成はては歩んだ歴史までを見通せるようになった。


これでもう雄雌まちがえることはけしてない。


「オス」

「メス」

「オス」

「オス」

「ニューハーフ」

「メス」

「オス」

「メス」

「メス」


番頭台に座るとのれんをくぐってやってくるひよこを鑑別していく。

1匹たりとも間違えたりはしない。

完璧に男湯・女湯を間違えずにひよこを案内した。


「親方、どうですか? これでもう番頭の仕事はばっちりでしょう!?」


親方は気まずそうに答えた。




「ひよこは子供だから、どっちの湯に入ってもいいんだけど……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひよこ温泉で一人前になるのは何が必要? ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ