第一章-6 北方の重騎士、来たる

 コックピット内で響く警告音。指示された方向に視線を向けた先にあったのは一機のVAF。


 重装騎士と言ってもいい外見。

 腰部に設けられた、羽を模した形状をした二対の簡易飛行フライトユニット。


 背中には、おそらく子機が収められていたであろう2つの塔状のユニット。

 右腕にはパイク状の武器、左腕には盾と一体化したよくわからない箱状のもの。


 高まる動悸とともに確信する。


「あれがK.O.F親機ほんたいか……」


 周囲には青白く輝く粒子が漂っていて、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 あの簡易飛行ユニットは結晶体にエネルギーを加えることで擬似力場を形成して機体を持ち上げると聞いたことがあった。あの光る粒子はおそらく力場を形成するためのものだろう。毒性は……おそらくあるのかもしれない。


 面頬とバイザーで覆われたK.O.Fのカメラアイがこっちを向いた。

 そしてスピーカーから声が発せられる。

 若い声だった。


『そのVAFに搭乗しているパイロット。直ちにそいつから降りてその機体と少女を引き渡せ。生命は保証する』


 生命は保証するだって? 爆弾落とした上にVAFまでけしかけておいてよく言うものだ。

 ――全くもってふざけてる。


「あんたの故郷では銃口向けられても、死にそうな目に合わせられても笑って済ませれるらしいな」


『その件に関しては申し訳ないと言っておこう。ここに民間人がいるとは予想外だったんだ』


「予想外も何も、オタクが何を目的としているのか知ったこっちゃないけど、こっちはただ調査に来ただけなんだ。戦闘の意思はない」


『それなら早く降りることだ。それで全てが済む』


「おいおい、VAFなしでここから帰れってのか? この死の地帯デスゾーンで? 人から帰る足奪っておいて無理言うのは困るよ」


第一、一人の少女にオペレーションなんて名前を付けるような連中に、ハイそうですかと引き渡せるほどそこまで人間性を捨てた覚えはない。


 この間に機体の状態をチェックするが……如何せん見た目通り古い機体だったためかどこもかしこも警告イエローだらけ。その中には危険域レッドがポツポツとあるぐらいで、まともな状態のところは皆無に近い。


 絶望的な状態だが先程の動きを見れば戦えないことはない事はわかる。


幸いにも、規格があっていたのかBMI制御に持ち込むことには成功した。

 後はゴスペルに接続して――


《ゴスペルへの接続が遮断されました》


「やられた!」


ここに来て電波妨害は痛すぎる。しかし、これは逆にチャンスとも言える。〈K.O.F.〉は無人型だ。それで電波妨害ともなれば……


『もし――この電波妨害で人間による操作はなくなると思っているのなら、それは大間違いだと伝えておこう』


「――!?」


『我々に電子攻撃ECMは通用しない。不利益を被るのは、電波を利用したネットワークに依存した君たちだけだ。――もっとも、そんな古い機体がゴスペルに対応しているとは思えないがね』


――本当に、まずいことになった。

ゴスペルの真価は、各機体に対するパイロットの適応性を向上させる点にある。

慣れの速さには自信があるが、この状況では話が別だ。

 

どう戦うべきか、どう動くべきか……それがわかるほど付き合いは長くないどころか短すぎる。


 設定を変更……接続不可。


 もう一度設定変更……接続不可。


 別の項目をいじってトライ……接続不可。


 また別の項目を……


『……話しすぎてしまったな。まぁそう言う事だ、悪く思わないでくれ』


 ――時間切れか。


 いやそもそもこの機体とミィナに用事があったようだからどの道こうなっていただろう。

 こうなった以上、自力でうまいことやるしかない。今は可能な限り生き延びることを優先しなければ。

 K.O.Fが身をかがめると、フライトユニットから発せられる甲高い音と輝く粒子が周囲を満たす。


『――それの破壊も作戦目標でもあるので……ね!』


 爆音と爆風に乗って、真っすぐ突っ込んでくるK.O.F。


――やっぱり狙いはこの機体もか! だけど、仕掛けてきたのはそっちだからな。痛い目見ても恨みっこなしだぞ!


 拳での攻撃だとマニピュレータに与えるダメージが馬鹿にできないため拳は握らず、手のひらを開いた状態に。そして右足を半歩後ろに。


 そしてタイミングを見計らってVAFのマニピュレータで一番硬い部位での打撃――掌底をお見舞いする――

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