第一部 結晶の巫女と夜明け前の楽園と継ぐ者たち
第一章 結晶と少女と重騎士たち ――エドルア島事変
第一章-1 悪夢の地にて
――エドルア島。
周囲をカーボンナノチューブとその複合素材で作られた高さ三〇メートル台の強固な壁と、そこから轟々と吹き出される強力なエアカーテンによって周囲を二次元的・三次元的に完全に封鎖された小さな島である。
多くの監視カメラが人類の生存のためにその視線を向ける壁の内側――島の地上部分は辺り一面くすんだ薄い水色の結晶によって剣山よろしく埋め尽くされていた。中には人型のものも見える。
これらは自然とそうなったのではない。
不可成結晶体――元素・分子の合成……それも3Dプリンターを使おうが、原子レベルで組み立てようが決して生成できない謎まみれの物質によってこのような姿になったのだ。
島中を覆う霧も、水蒸気ではなく粒子化した結晶が大半を占めている。
この島――壁の内側には人間はおろか動物すら存在しない。
住民――主に軍人や学者はいたが、一人残らず結晶へと姿を変えられてしまった。
物言わず、熱を発さず、生きるための営みもしない、有機物でないただの結晶へと。
――そんな完全な無人地帯と化したエドルア島の壁内にうごめく影が見える。
最初は柔らかい結晶体だった。そしてその結晶体が大気中の結晶体を集めていくうちに変化が現れた。
澄んだ水色の表面は少し白めの肌色をした皮膚へと。
ある部位はスレンダーな手足へと。
またある部位は少し主張的ながらも綺麗に膨らんだ胸へと。
――それは、まごうことなきヒトであった。それも少女である。
他に記すべき特徴があるとすれば髪と瞳の色だろうか。
きれいな海よりも聡明で澄んだ水色の瞳と髪。
彼女がなぜそこにいるのか。
なぜ結晶から生まれたのか。
――それはきっと彼女も知らない。
やがてベッドから難儀しながら起き上がるように、体を起こした彼女は周囲を見渡し、おもむろに立ち上がってさまよい始めた。
まるで探しものをするかのように――
◇ ◇ ◇
〈――記録終了〉
〈
〈エドルア島内に異常無し〉
〈定点観測終了〉
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