第681話


「エミリアの言葉ひとつで記憶にある恐怖が引き出された。アイツらは聖魔士くずれの姿を見ていたからな、『神が与える罰はあのようなものだ』と思い込んでいた。実際にはもっと酷い。簡単に手足を吹き飛ばしたこともあるらしい」


ダイバの言葉にアルマンさんとコルデさんが頷く。


「ムルコルスタ大陸は神の監視が強い。そんな中、職人たちがエミリアちゃんの持つレシピと一切の権限を奪おうと襲ってきた。エリーやキッカたちが対応しようと玄関の扉を開ける前に神の罰が落雷という形で落ちた。扉を開けたら、そこには手足を失った職人たちが転がっていた」

「職人が手足を失えば失職を意味する。彼らのステータスには職人失格のレッテルが貼られていた。二度と職人には戻れないが、ギルドの職員として新人職人にアドバイスをしている」


自分たちの存在を『おごった職人の成れの果て』として、職人たちに注意を促しているそうだ。


「長期にわたって続いた虫の襲撃スタンピードで、正常な判断が出来なくなっていたからな」

「私も襲撃スタンピードが起こったら好き勝手してもいいよね〜」

「却下」


アルマンさんの言葉に続いた私にダイバがバッサリと切り捨てる。


「なんでぇぇぇぇ!」

「エミリアは襲撃スタンピードに関係なく好き勝手しているだろう」

「私だって色々とガマンしてる!」

「何を?」

「ケンカをふっかけてきた相手に仕返ししない」

「その割に、相手は半死半生だけどな」

「結界の指輪がした。攻撃も魔法も反射して元に返っただけ。私からは手を出していないもん」


開いた右手の手のひらを見ながら親指を折り曲げる。

反撃はするけど、それは当然の権利。でも結界の指輪が起動するから、相手は仲間を巻きこんで自滅する。そのため反撃はしていない。


「ケンカを売ってきた連中に報復しない」

「代わりに妖精たちが『頭チリチリ・ツルツル・爆発・ハゲ頭』にしているだろ」

「うん」


人差し指を折り曲げる。

チリチリはもれなく静電気で黒焦げというオプション付き。これは頭が乾いていると起きる。爆発はアフロヘアーだけど濡れていると静電気で膨らんだ状態。


ツルツルは部分的にハゲている状態。以前から妖精たちは『大きなかぶ』を引っ張るイメージでなんでも引っ張る。それが私に関わって檻に入れられた犯罪者の髪の毛で遊んだ。1本2本では簡単に抜けてしまう。そのため、数十本まとめてみんなで引っ張る。そりゃあ、ぶちぶちぶちって音をたてて毛根ごと抜けたら痛いよね。抜けたら二度と生えてこないし。


そしてハゲ頭は、ストレス発散に緩衝材をプチプチプチと1つずつ潰すように、天辺から髪の毛を1本ずつ抜いていって全部なくなった状態。途中で飽きて放置されたらトーンスーラ……まあいわゆる『河童のお皿をのせたような頭』でツルツルに含まれる。


「自分たちの罪をなすりつけてきた権力者を再起不能にしない」

「それも妖精たちがやっているな」

「私は直接手を下していない。前の国王たちは重ねた罪にあわせて妊娠と出産を繰り返してるけど……あれは神の罰だもん。私はまだ何もしていない」

「何かする気か?」

「うん。ルヴィからは許可もらったよ」

「ルヴィアンカも、国王のストレスを発散させるためにエミリアの提案にノってるな」


立てている中指を折り曲げる。

ダイバのいう通り、ルヴィは前王ちちおやたちの尻拭いをするため、荒れ地になった王都の建て直しなどをしている。


「腕を砕こうと足をごうと、首の骨を外して顔を前後逆にしても。全身の骨を砕いても、風船みたいにパンパンに膨らませて空に飛ばしても。ありとあらゆる遊びを屈指して楽しんでいただいて構いません。これは国を危機にさらした罪に対する罰です。その罰を与えるあそんでいい権限をエミリアさんに差し上げます。遊び飽きたら地面に埋めて植物に姿を変えても構いません。生きていることに変わりはありませんから。アレでも毒草にはなれるでしょう」


これはテント型の世界会議場の製作に協力した褒賞らしい。「あげます」と言われたら「ありがとう」と受け取るのが私の礼儀だ。

以前、妖精たちが王都を砂に変えたときに回収していた書類はルヴィに渡した。あれは裏金や横領など犯罪のオンパレードだったらしい。


「神の罰が済み次第、こちらの罰へ移行します。今度はこの罪を公表して、社会的な死を与えましょう。……今まで肥やしてきた私腹とその身体を絞って、脂まで搾り取ってあげますとも。エミリアさんは出涸らしで遊んでください」


この言葉を私に同行したシーズルから聞いてダイバは頭を抱えた。


「この後にな、陛下はこう仰ったんだよ。『弱って死にかけたら自力で王都へ向かわせてください。路銀もないでしょうから自力で帰るしかないでしょう。その途中でき倒れようと誰のせいでもありません。いわば自業自得でしょう』ってな。まるでエミリアのような考えだったぞ」


この言葉に頭を抱えたのだ。


「あと、コレ大事。テストに出ま〜す」


薬指を折り曲げると、さっきまで苦笑しながら聞いていた隊員たちが口を閉じる。


「私、まだ『召喚されたうらみ』を晴らしていない」

「それは確定か?」

「と〜ぜん。報復は私に与えられた正当な権限で、エイドニア王国の連中やナナシに一撃入れないと気がすまない」

「……たしかにナナシには一撃をいれたいな」

「そのときは俺たちもお供します!」

「お供させてください!」


ダイバの言葉に隊員たちが次々と手をあげる。たとえ自分では手を出せないと分かっていても、ノーマンたちの代わりに私かダイバが頬を引っ叩く現場には立ち会いたいのだろう。


「………………」


私は黙って小指を折り曲げ、こぶしをかたく握りしめた。

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