第657話


「何が起きてどうなっているのか気になるだろうけど、今は文字のことは置いといて」

「持ってきて」


ダイバの前に物を置くように手を動かすと「……エミリア」と睨まれた。いつもなら妖精たちと一緒に遊んでノってくれるのに。


「エミリア。今は文字の問題は後回しにして……さっき分けていた話はなんだ?」


ダイバが言いかえてきた。さっきまで私は絵本を読んで、山を2つ作っていた。そのうち小山から2冊抜き出すとダイバに渡す。それを黙々と読むダイバを全員が黙って見守る。


「これは……エミリアの世界の本で読んだのと同じだな」


ダイバが読んだのは広島の原爆を題材にした本。もう1冊は長崎の原爆が題材だ。


「あと沖縄戦」

「エミリア、それは似ているが違うぞ」

「じゃあ第五福龍丸事件」

「それは大きく違う……って、そっちの本か?」


私がまた引き出してきた絵本を差し出すとダイバが目を通す。絵本はこういうときはすぐに読み終わるからいい。1冊読み終わると次の本を開く。


この世界の主流は魔法による戦争。しかし、魔導具を使った戦争を起こそうとした国がいままでいくつもあり、何度も実験が繰り返されてきた。海中で威力を実験した国もある。


「私の世界では1,500隻近い漁船。この世界では少数民が住んでいる複数の小島、被害者多数」


ムルコルスタ大陸で大爆発を起こした魔導研究所も、元は戦争が原因だった。その被害は全世界に魔素が漂うことになった。それに対して神が与えた罰は国の消滅とムルコルスタ大陸の魔法衰退。

生まれつきムルコルスタ大陸のアルマンさん曰く「ムルコルスタ大陸から出ても変わらん」とのこと。


「移住しても?」

「ああ、ここの連中より威力が弱めだな」


ここで思いついたこと。


「旧国の流民るみんって…………どっち?」

「何がだ?」

「流民になったのが先か、魔導研究所がドッカーンッしたのが先か」


何が引っかかったのか気付いたのだろう。ダイバが歴史書の最初のページを開く。


「爆発が先だ」

「これで分かったね。ナナシがほかの流民と旧シメオン国の流民が見分けできた理由」


魔法の威力が小さい。それは生活魔法でも同じのはず。そして魔法の衰退ということは使える魔法の種類が少ないということ。


「本で使い方を覚えれば使えるようにはなる。しかしなぁ……エリーですら魔法は使いこなしていない上に威力も弱い。強く見えるのは風属性のエルフで、風は魔法ではなくても使えるって点だ」


属性があれば魔法をフォローするそうだ。私が頻繁に使う風魔法『飛翔フライ』も、エリーさんは使えない。ただ生まれつきの風属性が魔法の代わりになっているだけ。


「コルデさんたちは、ムルコルスタ大陸に渡っても魔法は問題なかったの?」

「そういえば、特に問題はなかったな。ネージュたちのように、ほかの大陸から渡ってきた連中もいたし、キッカたちに合わせて魔法を使うより武器を使う方が多かったから気にしなかったな」

「ここのダンジョンに入るようになって、魔法の威力が弱いと自覚した。まあ、武器を使った戦闘に影響はなかったのと、エミリアちゃんがつくった属性付きの武器があったから気にはならなかった」


アルマンさんが言っていた「筋肉は裏切らない」が事実だったと証明された。そのため、アルマンさんが引退した今でもマッスル同好会が主体で筋肉強化特訓を続けているらしい。

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