第634話


ダイバたちが生まれる、ずぅっとずぅぅぅっっと(「強調しすぎ!」「セイリア、しぃー」)…………昔むかし、何十年も昔の話。

村には見目麗しい三姉妹がいた。


長女セイリアは真面目な努力家で優しさも兼ね備えていた。次女のセシリアは大人しく勉学に秀でた才女であった。この2人は互いに足りない部分を補い合い、互いを高め合う良きライバルでもあった。


そんな姉妹の末っ子、三女のセリシアは可愛らしさしか持たず、努力も持たず。幼な子を大人は可愛がるし、ある程度のことは「まだ子供だから」といって笑って許す甘やかす。それをこじらせて「私が可愛いからみんなが甘やかしてくれる」と思い込んだ。両親も姉たちも周りの人たちも、最初の頃は勘違いを訂正しようとした。しかし、その度にセリシアはわめく。


「誰か助けて! 私が可愛いことをねたんでいじめてくるのー!」


セリシアのために注意をしていた人たちはひとり、またひとりとセリシアを見捨てていく。それはさらなる勘違いを生み出す結果となる。


「みんな、私が正しいから何も言わなくなったんだわ」


そんな彼女に「みんな匙を投げたんだ」という訂正ツッコミですら、する気もなくなっただけだ。その思い込みから、ただ只管ひたすら見かけだけを磨き、知識をたくわえない脳はシワを刻まず…………訂正。無能で使われずに腐食していった脳のほとんどは、成長と共に体外へと排出された。空いた場所にいつしか夢想むそうの世界から侵食してきた花でいっぱいになった頃にひと騒動が起きた。


三姉妹の幼馴染みのランディが次女のセシリアにプロポーズしたのだ。セシリアが頬をそめて微笑む姿は長老や村長、両家(マイナス1人)立ち会いの場で承認された。


ランディに好意を持っていたセイリアは、ランディの心がセシリアに向いているのを早くから気付いていた。そのため自分の恋心に蓋をした。のちにセイリアは別の村に住んでいたイクスンと出会ったときに胸をときめかせた。その思いが恋心であり、ランディへの恋心おもいは家族に向けた愛情だと気づいた。そのイクスンがのちの夫である。


そして恋も愛も知らないマイナス1人セリシアは、自分が選ばれなかったことに憤慨した。


「私の方がランディに相応しい!」


最初は何度も自分を選べ、選び直せとランディに突撃した。しかしランディは見向きもしない。騒げば騒ぐほどランディの視線は冷たく鋭く、凍てつくような見えない氷柱ツララが全身を貫いた。


負けた……? 可愛げのない不出来な姉に、村一番の男を奪われた?

ううん、違う。薬か魔導具で操られているんだ。魔法だったら……セシリアを殺せば解ける!


のろいのように毎日そう言い続けていれば、セリシアにとってそれはとなる。


「くたばれ、魔女セシリアぁぁぁぁ!!!」


村長の家に侵入して、龍をも殺せるという竜槍りゅうそうを盗み出したセリシア。そして竜槍を手にして村を駆け回って邪魔者セシリアを探し回った。


「私の幸せを邪魔する奴は死ねぇぇぇぇ!!!」


武装して行く手をさえぎる男たちを薙ぎ倒していく。そしてセシリアを見つけて襲いかかった。


ザシュッ!


竜槍はセシリアではなく、身をていしてセシリアを庇った両親を貫いた。竜槍は一瞬でその身を霧散させた。その様子に呆然となって身動きができなくなったセリシアを、セイリアが利き腕を上腕の半分を残して斬り落とした。それが功を奏して、セリシアは竜槍の影響を脱した。


男たちが腕を斬り落とされた痛みで暴れまわるセリシアの身を取り押さえて地下牢に投げ込んでから数日後……セリシアの処分が決定した。


村長の家に押し入った不法侵入と竜槍の窃盗、止めようとした人たちの手足を奪った罪。そして……両親をその手にかけて消滅させた罪。

全員一致で死罪に相応しいと判断された。しかし両親の生命がセリシアの自我を取り戻させた事実もある。さらにセイリアが利き腕を斬り落としたが、そこはどんな治療も受けつけず。鑑定石により、欠損が神のご意向だと判明した。


『龍殺し』にも使われるこの竜槍は、目的を果たすまで手にした者を無双にする。セリシアの目的は家族セシリアの殺害。それは両親という家族に置き換えられた。血族かぞくのキズナがなせるわざなのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る