第633話


お祖父ちゃんたちの話は5回に渡って繰り返された。途中から私を心配したコルデさんがアルマンさんと一緒に話し合いに加わった。そのときに役立ったのが、ピピンが毎回書き起こしてくれた記録だった。


「そういえば、こんな昔話を聞いたことがあったな」

「俺は聞いたことないぞ」


コルデさんがもらした言葉に反応したのはダイバだった。それに返したのはお祖母ちゃんだった。


「仕方がないわ。この話は古い物語として伝わっているだけだもの」

「フーリさんたちも聞いたことがあるのかな?」

「どうだろうな。この話は大人になるまで話さないが……この話をすることを許されるのは一族のおさだけだ。結婚する前の新郎に話をするのがほとんどで、女性は『話を聞いても取り乱さない』ことが前提だ」


私とダイバに話していいと決めたのはそのおさだ。ううん、「」と言ったらしい。ただ、内容が内容のため、お祖父ちゃんたちから話すことになった。


「じゃあ、お祖父ちゃんたちと一緒に来た人たちは?」

「アイツらも知っている」

「一緒に来られなかった人は?」

「誰も知らないわね」


こんな、今まで信じていた世界の常識が崩壊するほど衝撃な内容を教えてもらっていない。つまり信用されていなかったのか……


「ヤツらは一族から追放されたということか」

「え⁉︎ そうなの?」


私の言葉にお祖父ちゃんたちが頷く。残された人たちは何も知らない。それはお祖母ちゃんの妹も同様だ。


「セリシアは追放されたんだよ」

「追放⁉︎ 村が嫌で出て行ったわけではなく……」


コルデさんも初めて聞いた話だったようで一番驚いて聞き返している。そんなコルデさんに「そうだ」と頷くお祖父ちゃん。


「そういえば、おばあちゃんたちのことならヘンナオジサンが教えてくれたよ」

「変なおじさん?」

「じーさんの幼馴染みだって言ってたな。なんだっけ、リマインって言ってたか」

「龍と竜人の違いとか知らなかったよ。いまも『バラクビルに竜人がいる』って思い込んでたし」

「ばーさんの妹が隣の国の王子に見染められて嫁になったって話はしてたな」


そう言ったら2人は声を上げて笑い出した。その様子に私たちも顔を見合わせる。


「やっぱり違うみたいだな」

「どこから違うのかな?」


私たちが顔を見合わせて首を傾げると、今日もテーブルに並んで正座している妖精たちも一緒に小首をかしげる。


「全部だ全部」

「全部〜?」

「そうね。まずセリシアだけど、ランディが言ったとおり追放処分よ」

「お祖母ちゃんとお祖父ちゃんの取り合いをしたって」

「誰が言ったの?」

「ヘンナオジサン」


お祖母ちゃんが「たしかに『ヘンナオジサン』ね」と笑っている。お祖父ちゃんは何かを考えているようだ。


「お前たち、そのリマインとかいう『ヘンナオジサン』の姿を確認できるのものはあるか?」

「あるよ。良い子はちゃんと記録を残しているの」


そういうと、ピピンが写真をテーブルの中央に差し出す。


「俺たちも顔を見たが……知っているであろうセイリアも心当たりはなかった」


シーズルのおばあちゃんで三姉妹の長女であるセイリアさんは一緒に住んでいるから真っ先に見せた。しかし、セイリアさんの反応は「誰、この人?」だった。

姿も名前さえも誰も覚えがなかったため、『変なおじさん』とよんでいるのだ。


「リマインではない。この男はリドイン、セリシアを見染めたという男だ」


お祖父ちゃんいわく、上手く変装しているらしい。魔導具を使っていないのは「違う大陸だから気付かれないだろう」という、どこからきたか分からない自信からのようだ。


「そういえばそんな性格だったわね。自意識過剰で自分は誰からも好かれると思い込んで。自分が言い寄れば私たちが喜んで身体を差し出すと思い込んでいたのよね」

「めっちゃ、きっっっもぉぉぉぉい!!!」

《 男の恥ぃ! 》

《 女の敵ぃ! 》

《 存在自体、あくぅ! 》


私の叫びに同調したのか妖精たちが同意する。


「はいはい、エミリアもお前らも落ち着け」


ダイバが私の頭をポンポンと軽く叩いてなだめてくる。同時に床が小さく揺れた。


「ほら見ろ、騰蛇が『仕返ししてやる』と言ってるぞ」


ダイバの言葉に反応して2度揺れる。騰蛇が肯定しているのだ。


「騰蛇、いまはまだ手を出すなよ。解決していないんだからな」


ゴゴゴッと小さな響きで騰蛇は返事をした。

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