第596話
離島で生活している
『続報:攻撃を受けずにそのまま沈んだことで、水の結界が効いていた町や村は助けられた。しかし、魔物よけの魔導具だけ使用していたところは全滅していた』
ルーバーたちの話だと、タムスロン大陸は自然災害が多く、大雨が降れば地面から海水が浸み出し、川も逆流を起こしては氾濫や決壊しては浸水していたらしい。そのため「いずれは沈んでもおかしくはないと言われてはいた」そうだ。その対策に町や村を水害から守る魔導具を設置していた。
「王都など大きな場所では、地面を石畳で敷き詰めてその上に家を建てている。それで水害を防ぐことが出来ているとして水害よけの魔導具を使っていない」
「ねえねえ、ルーバー、ゼオン。その王都って、降った雨はどこ行くの?」
「エミリア様……仰っている意味がわかりません」
「すぐに考えを投げ出さずに順序をたてて考えなさい」
「はい。王都は地面が石畳でできていて……」
ゼオンが声を出しながら、ひとつひとつルーバーに確認していく。ルーバーをはじめとした大人たちは私が何を確認しているのか気付いている。しかし、それをゼオンに簡単に教えたら意味がない。ゼオンは考えることが苦手だ。だから何か聞かれても「わからない」と即答する。
「その結果が
ヤンシスに振り回されて奴隷商に売られて。ヤンシスと2人で働く仕事を、妖精たちの協力がありつつもひとりで一生懸命働いてきた。そしてやっと奴隷から解放されるというのに、ヤンシスの借金も肩代わりするという。
「未遂になったけど逃走を止められなかった。だから自分にも責任がある」
「だったら逃走の借金を半分だけ肩代わりしなさい」
私はそう言ったが、ヤンシスとは幼い頃から一緒にいて、村から逃げ出したときもそれ以降も、ヤンシスはゼオンを見捨てることはなかった。
農園から飛び出そうとしたのも、元はといえばゼオンのためだったらしい。そのことはヤンシスが事情を話すまでゼオンも口を閉ざすと言っていた。無理に聞こうとは思わない。そのことを一番後悔しているのはゼオンなんだから。
「これで最後にします。僕はいつもヤンシスの背に隠れていたけど、本当は肩を並べたかった。それをあの事件で気付いたのです」
そのためには2人揃って奴隷から解放されないといけない。そんな理由から、いままでの謝罪も込めてヤンシスの借金を肩代わりすると訴えたのだ。そして『奴隷ヤンシスの所有権をゼオンに譲渡する』という契約を交わした。
「こんなことしなくても、俺はお前を信じて生きてきた」
「僕も、これで袂を分かつことはしない。ただ僕たちは子供だった。大人になるには一度手を離してひとりで立つ必要がある。そう思ったんだ」
「ああ、じゃあまずは借金を返してゼオンの横に並べるように頑張る。もちろん、借金を返し終わって奴隷から解放されてからも親友でいてくれるんだろ、相棒?」
ゼオンはヤンシスの『相棒』という言葉に涙をこぼした。
「俺はさ、本当な弱虫だったんだ。それが俺より弱いゼオンの存在があったから……俺の後ろで震えるアイツがいたから……どこまでも俺を慕ってついてくるから……俺はゼオンを守るために強くなれた」
そしてヤンシスは農園から飛び出そうとした理由を照れくさそうに話した。
「俺たちがルーバーをバカにしていたのには理由があったんだ。俺の親父たちは巨人の血が強かったから、普通に3メートルとかあったんだ。だから大人なのにそこまで背が高くないルーバーは巨人のハーフだと嘲笑ってきた」
ヤンシスたちはただ、大人たちの言葉をそのまま何も考えずに口にしてきたのだろう。言われた側が傷つくとも知らず。それが子供の『無邪気な悪意』だ。
「……でも違ったんだ。ルーバーは俺たちと同じ世代で、ルーバーの父親が俺の親父たちと同じ世代。ルーバーの母親だってそうだ、人間ではない。同じ巨人族なのに。ルーバーが巨人のハーフなら、ルーバーの母親は人間と関係を持ったと……ルーバーたち家族を侮辱したんだ」
しかし、再会したときにルーバーは大泣きして2人の無事を喜び、私へ救ってくれたことを感謝した。その姿をみてから2人は毎日後悔していた。
「無事を喜んでもらえるような関係ではないのに」
「なんで村で酷いことをしてきたというのに」
農園を飛び出そうとしたのは、ルーバーに直接謝罪したかったからだ。愚かだったと認めて……
「もう一度最初から関係を始めたかった」
それがあのとき農園を飛び出した本当の理由だった。
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