第595話


新年の数日前にコルデさんの家族兄弟姉妹が勢揃いした。…………そこにひとり足りない。


「オボロ……お兄ちゃん」


そう呼んでも返事は返ってこない。…………私はまた『お兄ちゃん』を失った。


「いつもそう呼んでほしいって言ってたな」

「エミリアちゃんが最後に呼んであげたら、オボロのやつ泣いて喜んでいた」


それはもう、ボロボロ泣いて……


「お兄ちゃんって認めてくれた」


ミリィさんの双子を抱いて嬉し泣きしているエリーさんの横で一緒に泣いていた。認める、認めないではない。ただコルデさんの息子だから、ダイバのお兄ちゃんだからってだけで「俺はエミリアちゃんのお兄ちゃん!」と言っていた。


私の利権や権限を求めて、に言いよる女たちがいる。コルデさんはフーリさんがいてダイバはアゴールがいる。アルマンさんはあまり出歩かないしフェミニストでもない。私やミリィさん、アゴールには対等に扱ってくれているだけだ。

そんな中、一番ターゲットになりやすかったのがオボロさんだった。実際に女性たちに声をかけられて鼻の下を伸ばしていた。しかしすぐに魂胆に気付いた。


「ねえ、エミリアさんのお兄さんなんでしょう? だったらちょっと融通してもらえないかしら?」

「私たち欲しいのがあるの」

「ええ? そんなことできない? お兄さんなら、いうことを聞かせるのにちょっと頬を殴ったりすればいいじゃない」


そう言われた瞬間に、群がっていた女性たちの意識を一瞬で狩りとった。守備隊が駆けつけて、周囲の目撃者や妖精たちの証言があったために罪にならなかったが。


そのときに、なぜ私がオボロさんを「お兄ちゃん」と呼ばないのかをダイバやシーズルから聞いた。それ以降、私の前バラクルでは「お兄ちゃんと呼んで」と言っても外では言わなくなった。そしてダンジョン都市シティで冒険者として名を上げた。

もう女性たちから絡まれても大丈夫だと思った。だから……「オボロお兄ちゃん」って呼んだ。

あれが最後になるなんて思わなかった。


「どうしても忘れ物を取りに戻りたいって言ってな」

「私たちも船を遅らせようか聞いたら『先に行っててくれ』って。……あれが最後だったなんて」


バラクルで家族の対面に私も引っ張り出された。


「家族で会うんだから。エミリアも家族だろ?」


そうダイバに言われたのだ。コルデさんたちがきたときは。でも、今度は家族として紹介したいと言われた。


《 ねえねえ、似合う? 》

《 ねえねえ、可愛い? 》

「みんな似合っているし可愛いよ」


妖精たちも私の家族ということで、お揃いの服を着て、私が編んだレースのリボンを髪に飾ったり腰紐にしておしゃれをしている。バラクルや農園で働く妖精たちも同じ揃いの服を着ている。新年のパーティーに歌う妖精たちがリハーサルをするのだ。


《 本当はね、悲しみを癒やす子守唄だから……。オボロのためにも歌いたいの 》

《 オルガやニック、ブランやサリーたち。死んだみんなのためにも 》

《 ちゃんとエミリアも聞いてね 》


そう言っていた妖精たちは、真っ白な揃いの服を着て上下5段で横に並んだ。


《 カチカチとなる時計 お花がねむるよ 小さなタネになって 生まれる前にもどって お母さんのゆりかごにゆられて しあわせな夢をみるよ 》


妖精たちの歌声に私たちはただただ涙を流し続けた。涙は心の中に残っていた様々な感情を一緒に浄化していった…………



『涙は癒やし』


その言葉のとおり、妖精たちの歌声を聞いて自然と涙を流した私たち。涙が止まると心が軽くなり、 亡くなった人たちの話をしていても胸が苦しくて涙があふれて話せなくなることはなくなった。

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