第578話
妖精の郵便屋さんは、たまに火龍に連れられてエルスカントの尾根まで郵便物の回収に行く。依頼はフィムの夢の中から子育て支援の妖精たちを経由して庁舎の郵便屋さん本部に届く。そして火龍が往復してくれている。
姿を見せるだけでそっちに竜人たちが集中するため、妖精たちは安全に配達ができるのだ。しかし、用心を怠らない。ちゃんと見つからないように気をつけている。火龍は黙っていても勝手に情報は入ってくるため、ただ耳を傾けて周りの様子をみて変わったことがないか確認しているらしい。
〈
「会話ができるように魔法をかけないからでしょ」
〈あんなバカどもなど話す価値などない。『自分たちは龍の血を濃く継いで龍にもなれる。だから我と同種であり、どの種族よりも偉い』。……フンッ、片腹痛いわ〉
火龍は鼻息荒く……鼻から白い息が吹き出す。
《 まあまあ、かわい子ちゃんたちが慰めてあげるから 》
〈ホッホッホ〉
妖精たちに頭を撫でられて、全身を洗浄で綺麗にしてもらい、火龍は嬉しそうに笑う。この後に火龍の『おたのしみ』が待っているのだ。
「火龍も完璧なジジだねえ」
〈失敬な。我は『近所のお兄さん』のつもりだぞ〉
「あの子たちの周りで最年長はダレ?」
右に目をそらす火龍。そんなことをしても、妖精たちが目線の先に飛んでいき《 ねえ、最年長はだあれ? 》と左に首を傾げる。左に顔を背けると妖精たちは左に飛んでいき《 ねえ、だあれ? 》と右に頭を傾ける。
「火龍、答えるまでずっと続くよ」
《 ねえ、この中で一番長生きしてるの、だあれ? 》
〈…………我だ〉
諦めて自分が最年長だと認める火龍。しかし妖精たちの争点は違う。『近所のお兄さん』と勘違いしている火龍に『ジジだ』と認めさせたいのだ。
《 じゃあ、ジジだよね? 》
〈…………〉
《 じゃあ、ジジイって呼ばれたい? 》
〈…………〉
《 ジジイ 》
《 ジジイ 》
《 火龍ジジイ 》
「火龍じーさん」
正しい言葉ではあるが、
《 火龍ジジ 》
《 火龍ジジイ 》
《 火龍じーさん 》
《 火龍ジジ 》
《 火龍ジジイ 》
《 火龍じーさん 》
「火龍じいじ」
〈エミリア、呼び方を増やすでない!〉
今度は柔らかい言い方にしたが、火龍は更なる追加が不満だったようだ。
《 火龍ジジ 》
《 火龍ジジイ 》
《 火龍じーさん 》
《 火龍じいじ 》
《 火龍ジジ 》
《 火龍ジジイ 》
《 火龍じーさん 》
《 火龍じいじ 》
〈…………もうどうとでも呼んでくれ〉
妖精たちに口々に追い詰められた火龍が白旗を揚げる。それでは妖精たちは納得しない。妖精たちは『どう呼ばれたいか』ではなく『ジジだと認めるか』という点だ。
「ジジだと認める?」
〈……〉
《 認める? 》
《 認めない? 》
《 火龍ジジ、認める? 》
《 火龍ジジイ、認めない? 》
《 火龍じーさん、認める? 》
《 火龍じいじ、認めない? 》
「早くお兄さんではなくジジだという立ち位置を認めないと……カワイイ子ちゃんたちと会えないよ?」
この脅しは火龍に妖精たちが何を求めているのかを気付かせることに成功したようだ。ハッとした表情になり地面に伏せていた頭を持ち上げる。
〈悪かった。近所のお兄さんではなくジジだと認める!〉
《 あー、よかった! 長く生きてきたからボケたのかと思ったー 》
《 うん、こんな大きな火龍に徘徊されたら大変だもんねー 》
〈エミリア……これは我を心配しての言葉か?〉
妖精たちの酷い評価に傷ついているのだろう、うっすら涙を浮かべている。しかしそんなことを妖精たちは気にしてなどおらず……
《 もしものときは苦しまないように殺してあげる。大丈夫、エミリアたちはもちろん僕たちでさえ
そう笑顔で根拠のないことを断言された火龍は大泣きした。それを見た妖精たちは、自分たちの配慮に泣いて喜んでいると勘違いして《 安心して死んでいいからね 》と感謝の押し売りをした。
もちろん火龍は感謝して泣いているのではないが……火龍の今後のために黙っておくことにした。
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