第577話


「エミリアちゃん」

「ミリィさん、アゴールにシエラも。」

「ふふふ。私たちが何を考えているか、その表情だと気付いていたのね」


2階から降りてきた3人の後ろから、とうのかごが4つ妖精たちに運ばれて来た。それに気付いて、暴れていた猛獣エリーさんが大人しくなる。


「ミリィ……」

「エリー、アラクネにエリーをぐるぐるに巻いてほしいってお願いしたのは私なの。エリーにも私の赤ちゃんたちに会ってほしかったから」

《 エリーは今のままでは赤ちゃんたちに吸収される。いまだって精神が抜け出そうとしてたでしょう? 》

《 ミリィだって会ってほしかったんだよ。エリーはミリィのでしょ 》

「そこ、強調しないで」

《 叔・母・さ・ん! 》

《 叔・母・さ・ん! 》

《 叔〜母〜さ〜ん! 》

「しつこい!!!」


妖精たちに揶揄われて騒ぐエリーさん。その背中を獣化した白虎が座布団おすわりしているため動けないらしい。


……あの状態でも、アルマンさんは片腕腕立て伏せができる。(ココ大事!)のアルマンさんが。それを知ってダイバが正しい筋肉のつけ方を教わり、嘱託冒険者のかたわらダンジョン管理部で特訓指導を受け持つ。コルデさんは「これから楽隠居」と言っていたが、アルマンさんと一緒に若手教育を楽しみにしているようだ。


「はいはい、これ以上騒がないの。で、白虎。エリーさんには椅子に座ってもらいたいから背中からおりて」

ガウ


白虎が返事をしてエリーさんの背中からおりる。アラクネの金糸がシュルンッとエリーさんの両手両足首と首に巻かれる。その際にリリンが首筋に触手を伸ばした。エリーさんには背後のため見えていない。


「あれ?」


リリンの隣に立つピピンに目を向けると、右手をあげて立てた人差し指を口に当てる。やはり、リリンはエリーさんに操り水を注射したようだ。しかしこれはエリーさんを大人しくして無事に赤ちゃんとの対面を果たしてもらうため。

ピピンの仕草に見えた人たちは表情をゆるませる。エリーさんの精神が身体から抜け出さなければ問題は起きないのだから。そしてそれはピピンの水とアラクネの金糸が抑えてくれるだろう。


「エリー、この子が娘のシェシェ。こっちがリュリュ、男の子よ」


ミリィさんが籐籠から浮かべられたシェシェをエリーさんの右ひざに、リュリュを左ひざにのせる。エリーさんは動けずに硬直したまま。


「エリー、呼吸しても大丈夫よ」


ミリィさんの言うとおり、呼吸すら忘れていたのだろう。ぴくりと肩が揺れると静かに息を吐き出した。


「2人、とも……ミリィによく似てる……」

「閉じているからわからないけど、瞳の色はルーバーと同じ若草色よ」

「ミリィ……ミリィ……」


涙が流れるエリーさん。両手は双子を支えているため涙をぬぐうことはできない。涙でグチャグチャになった顔のまま、エリーさんはミリィさんに「おめでとう」「幸せになってね」と繰り返す。


「エリー。この子たちも生まれたみんなはエリーの祝福を受けて生まれたのよ。だから、この子たちはエリーの子供でもあるの。そしてエミリアちゃんの弟妹きょうだいで子供でもあるの。私たちが産んだけど、みんなの子よ」

「エリーさん、これからもこの子たちの親のひとりとして成長を見守ってね」

「エリー、この子たちもフィムもみんなあなたの祝福をもらって生まれたのよ」


シエラとアゴールからもリドとエーメを膝に乗せられて、エリーさんの涙腺は壊れてしまった。さらにその目にハンカチが押し当てられた。


「どこか いたい?」


そう聞いたのはフィムだ。その優しさがエリーさんの限界だった。


「うわあああああん……」


声をあげてなくエリーさんに合わせて泣き出した3人の赤ちゃん。リュリュ、エーメ、リド。母親が抱き上げてあやしている中……


「やっぱりシェシェは泣かない子だねえ」


エリーさんの膝に残っていたシェシェを私が抱き上げたが、シェシェはぐっすり夢の中。別に耳が聞こえないなどという問題はない。ちゃんと聞こえているのだ。ただ夢の中でオモチャに囲まれて遊んでいたいのだ。そしてフィム同様、エルスカントの尾根に軟禁されている曾祖父母ジジとババたちがやって来ては遊んでもらっているらしい。


「家族として見守ってくれているらしいわ。フィムが4人のお兄ちゃんだと言ってくれたことも理由のひとつね」

「双子だから、ひとりを預かって面倒見てくれているのね」

「お腹がいたら泣いて、ミルクをのんでオムツを替えたらもう寝ているの。妖精たちも気にかけてくれているけど……一度ちゃんと会わせてあげたいわ」


何度か4人の赤ちゃんとフィムへのプレゼント(プラス暗号化された手紙付き)が妖精の郵便屋さんから届いた。ひっくり返したカバンから滝のように落ちてきた手紙で部屋の床が埋まったのをみて、私とフィムが「「プールだ〜!」」といって飛び込もうとした。いや飛び込んだけど、空中で風の妖精たちに止められた私たちはアゴールとミリィさんの膝の上に運ばれて『抱っこの刑』を受けた……解せぬ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る