第565話


諸悪の根源である精霊ニンフたち8人は死と再生を繰り返し、一瞬たりともピピンの許しを得られなかった。


「ピピン、これ、いつまで続けるの?」

「延々と」

「許す気は?」

「ありません」

「中断する気は?」

「ございません」

「ピピン、外に移動檻を持ってきた。そこに入れるから」

「止めません」

《 まあ……無事だったとはいえ恋人が襲われたんだからねー 》

「リリン、愛されてるね〜」

「私もピピンのこと、だあい好き」


リリンが笑顔でピピンに抱きつく。リリンはまだ話すのが苦手で言葉を伸ばしがちになる。それが甘く聞こえるらしく、ダンジョン都市シティの男性たちに人気がある。彼らの場合『リリンはピピンの恋人』と理解しているため一歩下がって崇めている。……だから、忘れていたのだ。リリンが狙われる可能性を。

ピピンは誰より自身を責めているのだ。それに気付いているから、誰もピピンを無理矢理止めることはしない。


「しっかたないね〜。今夜一晩で朝になったら一旦止めて檻に移してね」

「……エミリア?」

「だって、このままじゃ攻略できないでしょ? うるさいから連れて行きたくないし。檻に移したらまた続ければいいし、このまま風船にでもいれて檻に突っ込んでもいいし」

《 はーい、私がやるからこのまま死と再生を続けていいよー 》


風の妖精が手をあげる。


《 私たちの管理下に置くから、このまま死と再生計画続行させるよ 》

《うんうん。檻の中でも私たちの影響は続くから 》

《 うんうん。まだ聞きたいことがあるんだから 》

《 うんうん。宝石は包み隠さず自白したら外れるかもしれないよー 》


あ、これって……。そう思いダイバに目を向けると黙って頷いていた。


『自白したら外れるかもしれない』


それは裏を返せば『自白したって外れるとは限らない』となる。これは管理部や守備隊が相手を尋問するときに使う駆け引きだ。重要なこと、または真実に辿り着く情報を引き出せたら罰が軽減される。ただし、相手の欲しがる情報うそを提供する者もいるため見極めは重要だ。私の御守りアミュレットに鑑定が含まれているため、真実を言っているか立ち会いの依頼を受ける。報酬はあるから手伝うけど、今はエリーさんが引き受けている。鑑定スキルは使えば使うほどレベルが上がるらしい。


「スキルの使い方に慣れると、無意識に使えるようになる」


冒険者学校で新たに開示された情報だ。私の御守りアミュレットの鑑定も、最初はステータスから起動させていた。それが今では勝手に開く。ステータスのマップで表示される情報より詳細なので、いまどちらの情報が開いているのかがわかるけど。


「スワットだよね、この情報提供者」

「ああ、毎日鑑定を使っているからな」


それを知ったことでエリーさんは少しでも多く経験を重ねたいそうだ。しかし、エリーさんは異国民のため情報守秘も含まれるため、精霊ニンフたちに関わってもらえない。


「そうなると、私かスワット?」

「ああ……頼んだぞ」

「わかった」


廃都で彼らを預かり、私が戻ったら妖精たちが宝石で脅迫優しくお願いをして聞き出すらしい。私たちが廃都で中間報告をまとめて提出するまで、生きる喜びと死の恐怖を叩き込まれる。妖精たちのように簡単に儚く消えることもなく『妖精のたまご』で眠って回復する必要はない。生命の大切さを無限寿命の彼らは理解できない。


「理解できないなら叩き込めばいい」

《 理解するまで叩き込めばいい 》

「理解しても叩き込めばいい」


それがどんなに大変なことなのか。精霊ニンフは妖精と違って、誰かの痛みを自分が受けることもないし、その逆を体験することもない。それでも自分が受けた痛みを誰かに教えることはできるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る