第556話
「そんなことが……」
「それは間違いないというのですか」
「はい。聖女様が神獣様たちと共に確認されたと伺いました」
「なんと⁉︎ 聖女様が……!」
「はい。国は封じられて誰も中に入ることは叶わず。国民は植物に姿を変え、人の姿は一人も見つからなかったそうです」
誰もが思った「北の廃国と同じではないか」と。
罪を犯して逃げ帰った交渉人が見たのは、人っ子ひとりいなくなった国。神に滅ぼされ、国民は消滅したと言われてきたが…………植物に姿を変えられていたというのが正しいのかもしれない。
「いま、この大陸には妖精たちが調査のために何年も前からいるそうです。そんな彼らが北の廃国の調査を始めたそうです」
「それは一体……誰がそのようなことを?」
「我が国のエルフ族の女性から。彼女は
「我々は何か手伝うことは出来ないだろうか」
「それですが……皆様の国の過去を調べていただけませんでしょうか?」
「国の過去、ですか?」
「過去……国の歴史のことだろうか」
ルナンバルトの言葉を鸚鵡返しにする者や、背後に控える側近に確認している若い代表代理の困惑する声が音量を下げて聞こえる。
「国の成り立ち、国が
「召喚は一度も成功したことはなかった」
「ああ、私の国でも同じです」
「失敗でも構わないのです。詳しい回数が必要なのです」
困惑顔で隣の代表と顔を見合わせる。
『お前、意味がわかるか?』
『成功した回数だけではなく、失敗した数も詳しく知りたい?』
「召喚は公表されていない可能性もあるでしょう。国の秘めた歴史、もしくは魔導師たちが当時の王に隠れて行った可能性もあるでしょう。それをできる限り詳しく、失敗したときはそのときに何があったのか。何か異変が起きていないか。それを調査していただきたいのです」
「それは……理由をお聞きしてもよろしいか?」
ルナンバルトは頷いて口を開く。
「我が国に不思議な塔と像が異国より送られたことをご存知でしょうか」
「ええ、巨大な建造物だと伺っております」
「私の国に参った商人の話では、細部まで精巧に作られているそうですな」
「はい、実はそれらは、先程申し上げました
「なんと!」
あまり驚きが大きいと声が出ないようだ。
「もしかすると、召喚の失敗回数とそれらの遺物の数が合うのかもしれません。それを調べるために、皆様には詳しく調べていただきたいのです」
「それらは、いまどこに?」
「地中に埋まっていたそうです。いまは妖精たちがひとつずつ磨いて、もとの輝きを取り戻しています」
「それはすごい! 是非とも我が国にも飾らせていただきたい。お譲りいただけるようにお願いしてもらえないか」
「…………それがどういう意味か、お分かりいただけませんか?」
「えっっ……?」
若い代理は自身の発言の悪さを理解できていないようで、ルナンバルトの質問に答えられない。しかし、背後に控えている側近は気付いたように背後から声をひそめて説明をする。
「エイドニア王国の国王陛下に向かって、『
「私はそのようなつもりはない!」
「では何故、国へ戻られて陛下へ報告したのちに『我が国も交渉したいのですが』とお伺いされないのです? 『国の象徴として王宮の噴水の中央に飾られた巨大な水晶、気に入ったから貰ってやろう』。そう言われて『はい、どうぞ』といって渡すのですか」
「え……? それとこれとは違うだろう……?」
「同じですよ。ああ、その水晶を交渉に使われるというのですか?」
「あれはダメだ! 世界一の大きさを誇る水晶だぞ!」
「今では世界第二の大きさです。世界一は、何年も前にスライムを連れた女性冒険者が10メートルを超える水晶をダンジョンから持ち帰った記録です」
「…………はあ?」
「ちなみに
「ありえない、だろ……。うちは鉱山国家だぞ、うちよりデカいものなど……。そうか! そいつが嘘の報告をしているに違いない!」
「「「はぁぁぁぁぁぁ」」」
側近だけでなく全員が呆れたように息を吐きだす。その様子に、自分の味方が誰もいないと気付いて周りを見回す。
「……え? え、ええ?」
「殿下、まだ気付かないのですか」
「……な、バカにしているのか」
「スライムを連れた冒険者とは
「なにいいいいいいいい!!!」
「交渉する前に、交渉相手に因縁つけるとはなあ」
「それでは譲っていただくことなど不可能だろうな」
彼らは知らない、この会議に妖精たちが情報を得るために集まっていたことを。そして、失言によって地の妖精たちを怒らせて、自慢のために噴水の中央の土台に飾られた水晶や
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