第十一章
第555話
ユーグリアの森に棲む魔物が操られているという事実は、タグリシア国でも一部の人物にだけ知られている。混乱を引き起こさないためだ。冒険者たちは我れ先に討伐に向かうだろうし、商人は家に引きこもって出ようとしないだろう。それでは日常が送れなくなる……ダンジョン
「いやいや。それはほかの国、ほかの大陸でも気付かずに起きている可能性はないのだろうか?」
「世界会議に参加していない国もある。強国は『馴れ合う気はない』と宣言しているし、弱国は『開催国に行く金の都合がつかない』という」
「その弱国には、エイドニア王国が推進している農業革命の実践国になってもらうことは出来ないだろうか」
「それはいい。上手くいけば国が潤う」
「しかし、強国に目をつけられるのではないか?」
「そのための世界会議だろう? 武力だけが強国に対抗する
「国土を広げれば、国民の生活を保持するために農業の発展が必要となる。戦争が回避されるのであれば、農業の技術を提供するのもひとつの手です」
「しかし、それはエイドニア王国にとって利益がないと思うが?」
「利益ですか? そんなもの、国民の生命……住み慣れた土地を捨てて避難民となる国民たちの悲しみが回避できるなら無償で提供する価値は十分にあると思いませんか?」
ムルコルスタ大陸で行われた大陸会議。同じ大陸にある各国の代表が集まる会議は、エイドニア王国による招集によって始まった。
そこでプリクエン大陸で起きている通常の戦争とは言い
「皆様のご存知の通り、たった一年の間に我がエイドニア王国で魔物の異常行動が次々に発覚しました。恥ずかしながら、元弟の違法召喚によって世界を越えて参られた聖女様によって救っていただくことができました。そのときに、我が国で暗躍していた犯罪ギルドの罪を暴くことができました」
「ああ、覚えています。犯罪ギルドによる魔物の影響は私たちの国でも起こっていました」
「エイドニア王国が犯罪ギルドを取り締まってくれたおかげで、我が国でも水面下で起きていた犯罪に光を当てることができました」
「我が国も」「私の国でも」と口々に声があがる。エイドニア王国国王ルナンバルトは、聖女様に感謝を捧げる各国の代表たちの声に胸が締めつけられる。今もどこかで罰を受け彷徨っているであろう前国王と弟だった者。彼らによって運命を変えられた二人の聖女様。お一人は亡き、お一人は今でも世界の混乱の最前線に立たれていらっしゃられる。
「皆様にお話がございます」
ルナンバルトの声に代表たちの声が止む。視線が集中して一瞬
「ハハ、大丈夫ですよエイドニア国王。ここは世界会議ではありませんからな」
フルリアス国国王の言葉にルナンバルトの張っていた肩から無駄な力が抜ける。それに気付いて頷く代表者たち。次代の国王となるルナンバルトと歳の近い青年たちは「世界会議ではない」という言葉に表情を
「お心遣いありがとうございます、フルリアス国王」
礼をいうルナンバルトの顔は、若くして国王となった青年の変わらぬ優しい表情。彼は地に堕ちた国の名をあげるのではなく、混乱に陥った国民を守ることを優先した。必然的にそれが国民が安心・安全に暮らせる良い国として名をあげる結果となった。今でも国民優位であることに変わりはなく、前国王と元第二王子を同時に
「聖女様は今も人々をお救いくださっております。その中でいくつかの問題が解決し、更なる問題が判明しました。私たちはその問題の調査を頼まれております」
ムルコルスタ大陸では魔法が退化した原因は、魔導国家による研究所の爆発。そして旧シメオン国に下された神の罰。
「それ以外に、我々が入ることの出来なくなった北にあった廃国」
「交渉人が罪を犯して逃げ帰ったが国は滅んでいたという……?」
「我が国の犯罪史ですね。王族だった彼は捕まり
それが今でも伝わる伝説。しかし、真実は少し違うようだ。
「その男が逃げ帰ったときにはすでに国民は姿を変えていたと思われます」
「それは一体……?」
代表たちに驚きが広がる。そんな中、ルナンバルトはタグリシア国王から聞いた話を口にする。隣国で起きた『神の罰とその後』を。
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