第551話


もう一度意識を飛ばすのは止められた。風の魔法だったのだけど、「魔法を感知している可能性がある」ということが原因だ。それで今度は地の妖精に同調術で運んでもらうことに。地の妖精たちは森の中に多くいて、彼らの存在は……


「見えてないの⁉︎」

魚人族ハゥフルは水の妖精を閉じ込めたんだ。それで神に罰を受けたんだよ 》

《 うん、同じ水に属するんだけど…… 》


水の妖精は水を操れる側、魚人族ハゥフルたちは水に翻弄される側。赤潮に青潮、季節による海水の温度変化に魔物による海流の変化。その度に巻き込まれては仲間たちを失ってきた。

そんな彼らが目をつけたのが水の妖精たち。しかし、水の妖精をはじめ妖精たちはイタズラ好きで気まぐれで……基本は他種族に干渉しない。


《 連中は水の妖精に言ったんだよ『ここに留まって自分たちを守れ』って 》

「あー、そりゃあムリだ」


日々、妖精たちと接しているダイバが呆れた声をあげる。妖精たちは気まぐれだけど、『物を頼む態度』はしっかりしてる。それが守られていない以上、妖精たちが魚人族ハゥフルに協力するはずがない。

当時も水の妖精たちに同意されず。


「それで捕まえた?」

《 捕まえて、檻に閉じ込めた 》

《 その結果、水の神様に罰を受けたんだ 》


罰は全種族の妖精たちの姿が見えなくなること。妖精たちが見えなければ捕まえることは不可能になる。


《 それだけでなく、迫害を受けるようになったんだ 》


自業自得と笑えない。たった一ヶ所の愚行で神の罰を受けた。それは魚人族ハゥフル全体におよび、責めは魚人族ハゥフル全体が受けることになった。


《 迫害といっても、今までは地上に上がれる種族や海水を潜って来ていた商人が来なくなったってだけだよ 》

《 当時は陸上に上がれなかったんだ。でも海で住めなくなって地上に上がるしかできなくなった 》

《 仕方がないよね。水の中で暮らしている種族が、水の妖精を害したんだから 》

《 それまでだって、汚れた水の浄化とか精霊たちがしてきたけど、小さなは妖精が綺麗にしてたんだよ 》


水の妖精たちが魚人族ハゥフルの住む場所に近寄らなくなったことで、小さな状態で綺麗にされていたにごりは大きくなり、体調に異変をきたすまで悪化した。そして、今までも妖精たちが助けてくれていたことを知り、深く後悔した。しかし罰を受けた身では、妖精たちを二度と見ることはできない。直接謝罪することもできない。


「自分たちがここに留まれば水は汚れ続けてしまう」


神を祀る祭壇に謝罪したことで、無人島を与えられた。その島に上陸したと同時に彼らの下半身は二本の足へと変わった。大地では足で生活して水の中に入れば足は魚のひれに戻る。そんな二重生活で、いまの魚人族ハゥフルになった。


「とはいえ、魚人族ハゥフルはウロコの皮膚で頑丈だったが、いまは陸上生活が長くなってウロコの皮膚から人間より少しかたい程度だ。逆にウロコの皮膚が弱点になっている」


魚人族ハゥフルの情報をもらい、姿を隠しているというレインドルーブともうひとりを確認するため森へと入った。


《 エミリア、みえてる?》

うん、あそこに三人。で、隠れている人は?

《 ほら、あそこ。手を振ってる子がいるでしょ? 》

……あっ! あれって光魔法?

《 そうそう。あの男、光魔法が使えるから生き延びたんだろうね 》

《 エミリア、こっち向いてー 》

こっち? あれ、この人が使っているのは木の魔法……ではないね。

《 この人は、この森の木の精霊ドリュアスだよ 》

……操られているのね。それでこの集団がここまで見つからずに来られたわけだ。

《 自我が封じられてるみたい 》

心はどう? 助けられそう?

《 うん、心は残ってる。なんか『箱の中』にとじ込められている 》

地の妖精ちぃちゃん、私が夢の中に閉じ込められたときと同じ箱じゃない?

《 ……調べてみる。エミリアは先に戻ってて 》

気をつけてね。



すうっと意識が戻ってきた。


暗の妖精クラちゃん? あ、水の妖精みぃちゃん?」

《うん、私。危険だから交代したの 》

「危険? 何があった?」


私がみてきたことを説明する。レインドルーブが光魔法が使えることを知ってダイバとシーズルが驚く。


木の精霊ドリュアスがいたんだけど……」


私が何と言っていいか困って口を閉ざすと、水の妖精みぃちゃんが私の頭を撫でて言葉を紡ぐ。


《 まだ調べている途中だけど……エミリアが夢に閉じ込められたときに使われた箱に意識が閉じ込められている可能性があるの 》


ダイバが一瞬で目の色を変わる。シーズルが横から私の頭を抱き寄せる。その腕は小刻みに震えている。


「エミリアまで奪わせはしない」


シーズルの漏らした小さな声はいかりからか震えていた。

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