第511話


「それで実際のところはどうだ?」


ダイバの言葉にピピンは首を左右に振る。レイはフリンクたちを奴隷商に売った女エルフとは無関係らしい。


「しかしサヴァーナにはエルフ族が、ハーフエルフが多く住んでいるようです」

「どうやってこの荒れた大陸で薬草が多く採取できるのか不思議だったけど、エルフがいるからか」

「そうなると問題がでてくるな」

「問題?」

「その国には犯罪に加担したハーフエルフが多くいるということだ」

「そんなの簡単だよ。一網打尽にしてしまえばいい」


私がそういうとダイバが脱力してベッドにもたれかかった。


「そう簡単にできれば苦労はしない」

「できると思うよ」

「どうやって」

「まずは情報操作だね」



サヴァーナ国内でまことしやかな話が流れていた。


「この国のハーフエルフが、ほかの国で事件を起こして捕まったって?」

「ああ、その話なら聞いた。町長に色仕掛けで言い寄ったが、別の密命を受けてきた男と恋に落ちたって?」

「なんでも、男の仲間が一緒に逃走したらしいな」

「しかし、何だって町長の家やその周辺を壊して逃げたんだ?」

「証拠隠滅だろ? 男たちが住んでいた本屋と女が潜り込んだ町長宅。それに近所も崩壊に巻き込まれたらしい。怪我人がいなくてよかったよ」

「捕まったって連中はどうしたんだよ」

「それがどこで捕まって今どうしているかはわからないらしい」


バーではそんな話が広がっている。彼らは少しずつもれてくる情報を不思議には思わない。


「だってそうでしょう? そんな情報、普通だったら隠すよね。だったらどこから情報がもれてるの?」

「聞いたことをそのまま周りに話していく。それは誰が話したか聞いたのか酒の場ではそれもわからない。これが情報操作か」


真実を含めた情報、それに手足が生えて一人歩きを始める。背びれに尾びれがついて人々の間を泳ぎだす。翼が生えて広がったら、それはもう誰もが信じて疑わない『真実』へと定着する。それを否定しようにもすでに手遅れだ。


「サヴァーナ国内では操り水は使われていない。たしかに国民を操ればいいかもしれない。でもダイバはみたでしょ、ファウシスで操られた人たちの異常さを」


ダイバは少し表情を固くして頷く。騒ぐ町長をみても誰も気にせず日常生活を送る姿は、操られていない者にとって異常にしか見えなかった。もちろん目撃者には操り水の影響を受けていない人もいる。そんな人からの情報で、操られていない冒険者たちは真っ先にファウシスから逃げ出した。彼らが向かったのは王都だ。


「ファウシスの城門の魔導具はたぶん止められている。しかし王都を含めてタグリシア国内では犯罪者よけの魔導具は強化されている」

「戦争が起きたからね」


ダイバが頷くと通話の向こう側にいるシーズルが「それで俺たちはどう動けばいい?」と尋ねた。


「今はまだ動かなくていい。ただ王都には入れない冒険者が出るだろう。彼らには城門の外でテントを張らせるかダンジョン都市シティの外周部に来させてくれ。このまま戦争が始まれば冒険者であっても被害は大きくなる」

「わかった、王都にはそう伝えよう。それでエミリアは大丈夫か?」

「ああ、大人しくしている」

「……それはそれで不気味だな」

「ここで手に入れたものをあとで褒美にやると約束した」


ダイバは毎日何かをひとつくれる。昨日は火鉢、一昨日は焼き石をいれて使うアイロンだった。ダイバも興味があるのか使い方を聞いていた。


「こういうのがドワーフ族の魔導具研究に活かされるかも知れんだろう?」


そういうが、ダイバの趣味に『ものづくり』が加わったのを知っている。

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