第499話


翌日から町を散策。家族を探しているのだから、宿でゴロゴロは不自然。


「いたってフツーの町だね」

「見た目は、いや一部を除いて。……兵士はついて回っているし」

「ねえねえ、動く?」

「少し様子見だ。あ、すみません。こういう感じで……」


ダイバはこの町に長く営業しているという雑貨屋の女性店員に声をかける。実際に兄一人と姉二人とはコルデさん経由で通話を開いて会話をしているけど会っていない。その三人と祖父母の姿を尋ねて回っているのだ。


「うーん、ごめんね。みたことはないわね」

「そうですか、ありがとうございます。エア、商品に手を出すんじゃないぞ」

「み〜て〜る〜だ〜け〜」


この店には不思議な道具が置かれている。

昭和初期のアイロンなどだ。骨董品のように古いものばかり。プラグがついている時点でこれは私の世界のものだろう。


「あー、そこら辺はクズなのよ。欲しいなら全部持っていっていいわよ」

「エア、欲しいのか?」

「うん、お兄ちゃん買って〜」

「あ、お金ならいらないよ。っていうより、倉庫にも大量にあるんだけど。どうせだから持っていってくれない?」


私をエアで呼ぶのは、ダンジョン都市シティに近く、エミリアの存在は聖魔師テイマーでも職人でも有名だからだ。たとえ姿を変えていても、名前だけで追い回される危険性はどこでも一緒だ。いや、植物が宿などの建物以外に見当たらない以上、昔のダンジョン都市シティのように私欲にはしる者が多くても不思議ではない。

ダイバは譲られた商品を無料回収で店員と取り引きをすると、自分のバッグに収納する。それから私の手をひいて店員の後をついていく。倉庫のものも見せてもらうことになったからだ。この店も木造建築、操られた様子はない。

……この女性店員、ダイバに色目使ってるけどムリムリ。ダイバはアゴール一択で、家族や友人以外の周りは『その他大勢の女』なんだから。



「ここだよ」


そこには日本で見慣れたものが所狭しと置かれている。


「どうしたの? こんなにたくさん」

「死んだじーさんが見つけては拾ってきてたんだ。でも何に使うか分からなくてさ。一向に片付かないし、見たとおり倉庫をひとつ使ってて邪魔なのさ」

「エア……その目は欲しいんだな」


コクコクと繰り返し頷くと頭に手を乗せられて止められた。


「お前のソレをみると、そのうち首が折れて頭が落ちるんじゃないかって心配になる」

「ハハハ、お兄ちゃんは大変だねー」

「俺はコイツのアニキだからな。これからも心配はするし、死ぬまで面倒もみる」


ダイバたちは気付いている、私がこの世界に来た姿のまま成長していないということを。この世界では一定年齢を過ぎると成長が止まる、そんな人種は多い。長寿種族、職業、称号。もしくは神の意によるもの。


《 エミリアはこの世界だったら百八十歳くらい生きるかな。聖魔師テイマーに与えられる妖精の庭だけで過ごすなら二百五十歳まで生けるかも 》


それは自然環境と空中に漂う魔素によるもの。この世界の環境に慣れた私だから長寿になれるらしい。それに竜人の寿命と同じくらいだ。そのため、ダイバたちは私を家族として受け入れてくれた。


「宿はどこなの?」

《 聞こえなーい、聞こえなーい 》

《 聞き間違―い、聞き間違―い 》


風の妖精が女性店員の周りを回り、言葉をささやく。すると女性店員はダイバに微笑んで「時間があったら一緒にお酒でも飲みましょうね」と微笑んで私たちを送り出した。


「宿に帰ろうか」

「ああ、少し休もう」


私たちの周囲を探っていた兵士たちが二手に分かれた。ひと組は雑貨屋へ、もうひと組は私たちの後ろを追いかけて。しかし、両者とも見失うだろう。この地の妖精たちが協力してくれているのだから。

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