第445話


これ以上、竜人のことを隠し続けるのは得策ではない。竜人である以上、竜人自身が知らなくては身を守ることもできない。


「そんな……」


シューメリさんが声を震わせる。旦那の弟つまりシューメリさんの義弟になるフレイズ、セウルたちの兄ボタジェシカ。彼らがセウルたちを奴隷商に売却したことに悲しみと憤りを抑えられないようだ。……それもシューメリさんの息子でセウルたちの父たちは流行り病による死だったが、自分たちの飲む薬を子供たちに与えていた。その結果、亡くなったのだ。


「…………義母かあさん」


ダイバが心配して声をかける。流行り病など、シューメリさんたち先祖返りにはきかない。ちょっと効果は落ちるが、両性具有もかかりにくい。しかし、彼らの親子兄弟にはそんな血液の効果はない。


「身体は丈夫に生んであげられたというのに」

「シューメリ、大丈夫?」


隣に座るフーリさんが支えるように腕に触れて背を撫でる。シューメリさんの顔が青ざめているのは見間違いではないだろう。


「シューメリ、テントを出す。休んでこい」

「ありがとう、コルデ。でも、最後まで聞かせて。これは私の家族の問題。誰より私が聞かなくてはいけないこと」


そういったシューメリさんは俯いていた顔をあげる。少し赤みのでてきた顔には覚悟が見られるが悲壮感はみられない。胸から悲痛な思いを一掃させて前を向いたからだろう。夫がいない今、シューメリさんには妊婦の娘と彼女に寄り添う孫。そして、まだ抱きしめられないが、奴隷として就労している四人の孫たちもいる。自分がこの場で家長として踏ん張る強さが増しているのだろう。それは彼女の言葉にも含まれていた。


「エミリアちゃん、ダイバ。心配かけたけど、話を続けてちょうだい。私には過去を嘆くより、前を向かなきゃダメなのよ」


そして冷静を取り戻した彼女はこう言い切った。


「いまこの話をしたということは、フレイズたちが何か行動を起こすか既に起こしているのね」

「……そう、その前にもうひとつ。竜人には二種類の種族がいるのよ」


そういった私からバトンを受け取ったダイバが、龍から竜人になる一族の存在を説明した。今は真面目な話だから、別に劣化版とか言わないけど……


「エミリアちゃん」

「なあに?」

「もうひとつの竜人一族を『劣化版』って思ってない?」

「……えっと〜。そうというか、二種類言い方があって……」

「『わるい子』とは思ってそうね」


フーリさんに言葉を濁すとアゴールに言い当てられた。それを聞いた火龍と騰蛇が笑いながら転がる。


〈ハッハッハ。エミリアよ、しっかりバレておるな〉

「火龍だって一緒にいってたじゃん! 同罪なんだからね〜!」

《 同罪! 同罪!》

ぺっちん、ぺっちん。


同罪と言いながらぺっちんと火龍を叩く妖精たち。頭部を狙われて顔をあげている火龍。ススス〜ッとリリンが近寄って……


パッチーン!

〈イッテェェェ!!!〉

「あ、目が星になった」


人型のリリンの触手ムチをはじめて受けたようだ。

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