第386話


ダイバの話では、その国は『竜人の生き血』を求めていたらしい。


「なんでえ……?」

「龍の叡智を求めて、らしい」

「龍と竜人は違うよね」


そう、龍というのは神の眷属だ。そして魔物の龍とも違う。ダイバたち竜人および竜はただの種族なのだ。


「大元は、悪龍や邪竜など迷惑をかける連中の根性を叩き直したときに血を被っちゃったって人たちだよね。ただ、龍や竜たちの魔力が混じった血が濃すぎて人の枠から外れちゃったってだけで」

「……エミリア。簡潔且つ正しい認識をするんだな、お前の頭は」


私がダイバやアゴールに聞かされた話をそうまとめただけだ。ちなみにこの話ははるか昔の話。ムルコルスタ大陸のどこかの国にあった魔導研究所の事件で、この世界の空気に魔素が混じるよりも更に昔むかしのその昔。事件が起きる以前は、魔素は血の中、魔力は体内にあるだけ。回復するには魔力専用の回復薬を飲むか何日も眠って身体を休ませるしか方法はなく、今みたいに空気から魔素を取り込んで魔力に変換することはできなかった。

もちろん身体の大きい魔物ほど体内に持つ魔素は多く、魔力は膨大になる。そして被害は甚大になり、数多な犠牲者と悲しみがそこに生まれる。

そんな悲しみの連鎖を止めるために、勇気ある者たちが立ち上がり、気付けば百人という一隊になり、平和という旗を掲げて討伐に向かう。そうして勇気ある者たちの大いなる困難と尊い犠牲のもと、その地域にだけ平和を齎し竜人を生み出した。


「戦った人たちって、自分が竜の血を浴びて人ではなくなってしまうことをわかった上で立ち向かったんだよね」

「ああ、家族を残し故郷に戻らない覚悟で」

「家族や故郷を守るため?」

「ああ、多分そうだな」

「……なんで?」

「なんで、って。まあ、悪龍も邪竜も人を喰ってたからな。『大切な人を守りたい』という考えだったんだろ」


自己犠牲は自己満足でしかない。本人はそれでいいかもしれない。しかし遺された者の気持ちは……悲しみはどうなのだ? それこそ深い慚愧の念にかられて幸せになどなれるはずがない。

そこに深い愛情があれば尚更だ。年老いた両親や遺児なんて残されていれば、それこそ生き地獄。周囲だって腫れ物に触るようにしか対応できない。

特に遺児は自分たちに勇気がなく、人に死を押し付けて、まだ討伐できないのか早く死んじまえと願い、安全な場所に隠れて生き残った者たちにとって罪の象徴なのだから。


「悪〜い奴をニエにして与えておけばよかったのに」

「当時は今より人間の数が少なかった。それに犯罪者の処刑が贄だったらしい」

「そっか。悪い連中を喰ってきたから、さらに悪い龍になっちまったってことか」


私の断言にダイバが苦笑する。しかし、すぐに笑いを引っ込めて真面目な表情になる。


「ねえ、ダイバ」


そう呼び掛ければ顔を上げて「どうした?」と聞いてくる。私は深呼吸をしてダイバに爆弾を投げつけた。


「ダイバは私が聖女だって何で知ってるの?」

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