第377話


「ところでその道具に関して何か言っていたか?」

「それが『市販されていない道具だ』と。だったら職人ギルドを通すようにと言ったら『作っているのは職人ではないからギルドに入っていない』と言われました。さらに取り引きは対面販売になるとも言われ、誰かが外周部まで受け取りに行く必要がある、とまで言われました」

「つまり、売り手は入れず買い手も戻って来られない、ってことか」

「荷物も送れないもの……。危険物に指定されているものか?」


みんなから次々と出される内容は、どこまで真実が含まれているかわからない。


「あー、ちょっと確認させてもらってもいいですか?」


メッシュの声に誰もが口を閉ざす。情報部のメッシュが何に引っかかったのかわからないからだ。


「エミリアさん、シルキーの一件では多大な迷惑をかけた。それで皆さん、あのときシルキーが聞き出そうとした話は何だったか覚えていますか?」


メッシュの言葉に全員が思い出した、小さな事件。設置された魔物よけの魔導具の境界線を通れなかった男の話だ。ジズが現れてアクセサリーを破壊後に通れたあの事件は今も調査中だ。


「アクセサリーがに引っかかりました。まだ調査中ですが、そのアクセサリーに魔物が封じられていたとか……可能性はありませんか?」

「あの男が運び屋だったということか?」

「いいえ、直接話をしましたが、その可能性は低いでしょう。本人の話では店で購入したアクセサリーだったそうです」

「その店は?」

「調査に向かった者の話では『アクセサリーが壊れた日と同じ時期に職人が惨殺体で見つかったため閉店した』とのことです」


『呪い返し』

私の脳裏によぎった言葉。しかし呪いでは魔物よけの魔道具は起動しない。それにエリーさんのアクセサリーにつけられていたのは即死効果。それでも少しは生きていた。あれは商人ギルドにいた商人が「冒険者のお守りとして配っている」と言われて受け取ったもの。その商人はすぐに捕まったものの、冒険者の女性に渡すよう指示されていただけで詳しいことは知らなかった……


「エミリア、あとで一緒に考えよう」


ダイバに小声で言われて顔を上げる。ダイバも同じ考えに至ったのだろう。『一緒に』……その言葉が、自分一人ではないと勇気づけてくれた。


「調査は続行中。新しい情報が手に入ればまた報告します」


メッシュの言葉に会議室内が静かになる。何の情報もない以上、想像だけの話は誤った情報まで含まれるため危険なのだ。


「その話をしたのは商人ですか? それとも庁舎の職員ですか?」


ヘインジルの質問にレイドンは首を左右に振る。


「最初の依頼は一般人です。もちろん断りました。個人取引を庁舎が肩代わりすることはないし仲介をすることもない。そう言って却下したのです。それを売店の職員が『手に入りにくい商品を手に入れられたら』という欲をだし、手を出して口まで出すようになったのです」

「それは申し訳ない」


ヘインジルが商人ギルド代表として頭を下げる。しかし、レイドンがそれを止めた。


「その職員ですが、『商人ギルドの関係者にはこの話はできない』と言われて商人ギルドから脱退しているはずです。書類を偽造したものの表向きは所属しているように書き換えているため、給料はもらえる、といっているのを聞きました」

《 大丈夫だよ。書き直された書類は元に戻した 》

《 うん、退職も受理されたから給料はでてないよ 》

《 うん、ボクが給料欄から削除したー! 》


三人の妖精たちが《 誉めて、誉めて 》という表情で報告した。


「お……お前らスゲー!」

「よくやった! 偉いぞ!」

「ああ、……そうだ! コイツは礼だ」

《 わーい、ありがとう! 》


お礼と言われて出されたお菓子を三人が受け取る。それを仲間の妖精たちにも分け与えて一緒に頬張る姿に頬が緩んだ。

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