第340話


妖精たちと相談の上、機織り女アラクネが騰蛇の住処に運んでくれることになった。


《 ねえ、エミリア。他にも『危険物扱い』に入る物が結構あるんだけど 》

《 そこの箱の中にもあるよ。回収してもいい? 》

「ちょっと待ってて、確認するから。ねえダイバ、妖精たちが他にも危険物扱いになる物があるから回収したいって」

「あ、自由に持っていってください。置いていても母や信者たちに悪用されるだけですから」


私がダイバに確認するとシルキーから許可おゆるしがでた。彼女の手首には『魅了封じ』の腕輪がつけられている。そのおかげで正常な思考を保てるようだ。


「魅了の効果って、使っている私自身にも影響があるのですね。この腕輪をつけてから、今まで自分の中にあった意味不明な高揚感や傲慢な気持ちが落ち着きました。まるで生まれ変わった気分です」


そんな彼女にとって、今まで信者として持っていた物は忌まわしい過去の異物でしかないようだ。


「エミリア。女神像はともかく、『置いていても問題がない物』以外は持っていってくれ。職員の中に信者がいないとは限らないからな」

「それに信者たちが何か言ってきても、実際に見てもらって『本当にない』とわかれば引くだろう」

「そのときは騒いだ責任をとって牢屋で連泊してもらって」

「……何かあるのか?」

「用心のためだよ」

「たしかに、探し物が見つからなかった腹いせで暴れられたら迷惑だ。それだったら、最初から檻の中で大人しくしていてもらった方がいい」


私が気にしているのはアヘン中毒。信者たちが行う大礼の儀式がシルキーの話では母親が捕まった三日後に開かれる予定だった。それから間もなくひと月になろうとしているから、徐々に禁断症状がでている人がいてもおかしくはない。


自ら魅了の女神信仰の物を部屋の一角に運び出すシルキー。彼女は解凍前に行われた治療師による鑑定で薬物中毒とでたため、解凍直後から解毒治療が行われてきた。強制睡眠による解毒。本人の意思か否かは別として、長年の薬物摂取による慢性中毒者の場合、魔法で一度に解毒すると心身共に壊れてしまうらしい。そのため、時間をかけて少しずつゆっくり治療していく。ただ、シルキーの場合は解凍と同時進行で治療ができたため二週間で完治した。

それから腕輪でコントロールできない魅了を封じ、精神が安定するのにさらに一週間。一番精神に影響を与えたのは、母親に口封じで一度殺されたことだろう。それも治療師たちの努力で落ち着くことができたようだ。

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