第341話
「私、おかしいですよね。ここにきたときはまだ残っていた母の魅了の加護が消えて、私が母の代わりにここの責任者となるはずだったんです。ですが、母に言われるまま責任者の交代はしないで私は裏方に回りました。それが母や信者のためにいいことだと思っていたけど……」
「ああ、これ以上失いたくなかったんだろう。貴族としての立場に夫の愛情、魅了の加護に責任者としての立場」
「母はどれも全部、魅了を使わないで手に入れた物がありません」
「別の言い方をすれば、魅了に頼って生きてきたから『魅了を失った』という事実を受け入れることができなかったんだろうね。それに、娘は魅了が使えるまま。だから、何とか今の立場にしがみついていたかった」
「それを、私がエミリアさんに対して傲慢な態度をとり、情報部から罰を受けることになりました。それは私という駒が母の拠り処となっている信仰を奪う行為だった。それを守るために、娘より信仰を選んだ……ということだったのですね」
いま、シルキーの母親は神殿の独房で大人しくしている。『自分に優しい世界』の住人となり、そこから戻らないようだ。
「母は私のこともわかりません。彼女の世界には優しい人たちしかおらず、彼女から魅了の加護を奪う娘はいらないのです」
妖精たちの話では、この世界の加護の大半は子供を産めば最初の子に受け継がれていく。その子が死産だったり早世したら加護は失われる。
それをダイバ経由でシルキーと彼女の母に知らされた。先に話を聞いたシルキーは子宮を停止させる薬物を自らのんだ。それを今まで魅了を使ってきた罰としたのだ。そして、母親にはシルキーから話した。魅了の加護が失われたのは自分が選んだことだと知り、さらに自分から加護を受け継いだ娘は、魅了を悪用してきた罰として自らの意思で子宮の永久停止を選んだことを知らされた。ショックを受けて悲鳴というか奇声というか、雄叫びをあげ続けた母親は突如倒れた。
そして無事に目覚めたものの、
「責任者だった母はその責任から逃げたのです」
「生まれ変わったら、今回の罰と罪を償わず逃げた罰を受ける。酷い環境下で罪を償いながら生きることになるだろうな」
前世の罪と罰は賞罰欄に表示されない。そして延滞料金や追徴課税……というか、罪が判明してから罰を受けるまでの日々と、それによって罰を受ける期間の延長と罰の重さが追加される。逃げれば、次の人生で生まれた直後から罰を受ける。その人生で贖いきれなかったら、さらに次の一生を贖罪にあてがわれる。
もし、この人生で罪の重さより罰の方が重かった場合、次の人生はワンランクアップから始まる。今生が貴族だった場合、次も貴族からやり直せる。それでも同じ罪を犯したら、二度と貴族には生まれないし結婚して貴族になることもできなくなる。
妖精たちの説明では、魂にはそれまでの賞罰が刻まれているらしいが、それは神や聖霊たち『永遠の生命を生きる者』しか見られないようだ。
「や〜ね〜。個人情報をのぞき見? いや〜ん、エッチ〜」
《 ……いうと思ったよ 》
そう言いながら、みんなが笑い合う。きっと、この子たちは私が生まれ変わっても探し出してくれるだろう。妖精たちも永遠の生命を生きるからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。