第337話


「そういえば気になったんだけど、最初の大陸って魔法に関する知識が低かったんだけど、その理由はわかる?」

《 それはどのように? 》

「魔法の本だってあるのに知識が偏ってるの。最初はこの世界全体がそうなんだと思ってたけど、この大陸では魔法はメジャーだし、逆に制御系の魔導具がでるくらいだし……」

《 ムルコルスタ大陸だっけ 》


風の妖精の質問に頷くと驚く言葉が返ってきた。


《 仕方がないよ。あの大陸は魔法が制限されて退化しているから 》

「は、あぁぁぁ? 何それ」


妖精たちの話では、以前はどこの大陸でも同じように魔法が使えていた。でも、ムルコルスタ大陸にある国の一つが強さを求めて魔導研究所なる専門機関を作り出した。魔導研究所は魔導具で魔法を強化させる方法を手に入れて、様々な魔導具を生み出していった。ただし、生活が豊かになると、『この技術を奪いにどこかの国が攻めてくるかもしれない』という疑心暗鬼にかられ、国の安全や防御ではなく攻撃魔法に手を出した。それが魔法の強化をさせていた魔導具に大きな負荷がかかった。

……ある日、メインに使っていた巨大で強大な魔導具に限界がきた。魔法を強化させる魔導具だ。気付いたときは魔導具が砕ける直前で、そのままでは大陸全体が消滅するかもしれなかった。運がいいのか悪いのか、魔導具が強化しているため強くなっている魔法で空間魔法を作り、魔導具が砕ける直前に威力を抑えることに成功した。


《 研究所の魔導士たちの生命を対価として大陸が滅ぶことから救われたけど、異常に濃い魔素が世界を覆った。この世界の空気に魔素が含まれているのはそれが理由だよ 》

「おかげで、ステータスに魔力が表示されていても、魔力切れになったことはないよ」


ステータスに表示される魔力は、体内に蓄積できる最大容量だ。普通のダンジョンは騰蛇の手が加えられていない。そのため『魔物よせ』の魔導具が最終ボス部屋のさらに奥、転移石の台座などに加工されて設置されている。

そんなダンジョンの奥では魔素が薄いところもある。それがこの世界本来の空気だったのだろう。ただそんな場所で魔物に負ける冒険者は多い。体内の魔素不足で魔法が使えないためだ。そんなダンジョンは別名『魔術師殺し』とも呼ばれている。対策は簡単、テント内で休んで回復させるだけだ。ただ、結界を張った中で休んでも魔素は回復しない。結界は空気を遮断しない。そのため魔素が薄いかまったく含まれていない空気を吸ったって回復などできるはずがない。そのため、魔素が多く含まれている別空間に繋がるテント内で休むのだ。それを結界の中で休み、十分に魔力が回復していないのに疲れが取れたから大丈夫だと勘違いして戦闘に向かい、結果として生命を落とすのだ。



手をパチパチ叩いて喜んでいた私は《 でも、神経を使いすぎて集中切れには陥るよね 》と火の妖精にチクリと言われて、ガックリとこうべと両腕を下げた。


《 あー! エミリアの電池が切れたー! 》

《 大変! 何か……あ、ピピン 》

《 え? あ、うん。……エミリア、ピピンが『少し早いけどご飯にしよう。海鮮チャーハンと天津飯、どっちが食べたい?』だって 》

「天津チャーハンの海鮮あんかけ。杏仁豆腐クコの実ふた粒のせ」


カックンカックンと腕を上下に振って前後に揺れながら答えると、みんなが笑いだした。


《 烏龍茶とジャスミン茶、どっちが飲みたい? 》

「烏龍茶……あ、あとで昨日ブレンドした桂花茶の試し飲みしたいんだけど」

《 じゃあ、おやつタイムでクッキーを食べるときにしよう 》

《 新しいお茶だよね。楽しみだなー 》


妖精たちも新しい物好きだから、何か新しい料理をすると喜ぶんだよね。落ち着いたら、また何か新しい料理……お菓子でもいいか、作ろうかな〜。

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