第332話
「あの者の処分ですが、こちらに任せてもらってもいいですか?」
「なにをする気?」
「魔導具の調査で送られてきたアイテムがどう人体に影響があるかを体験してもらいます。その中に一定期間、声が出せなくなるという魔導具もありました。その一定期間とはどれだけか。ほかの魔導具との重ね付けは可能か。同じ魔導具で重ね付けができるか。実は今日、その経過報告の会議がありましたが、彼女は休暇を理由に会議に不参加。その結果、がこの騒動です」
「あーあ。新しい情報を共有するための大事な会議なのに、すっぽかしたんだ。出席すれば評価と報酬がもらえて記者として一歩進めたのに」
私たちの会話に、驚いた表情を見せる新人記者。それに周囲からも疑惑の声が漏れる。記者というものは好奇心の塊で、興味を持ったことにはトコトン知ろうとする。ただし、それに人が絡む場合は違う。まずその周りから調査を開始して、相手に突撃するのは最終的手段だ。
そんな記者が、情報収集の場である会議に、休みを理由にでないという話は今まで聞いたことがない。
「まだアンタは見習いで、記者として採用されたわけではない。態度で正式採用される。それくらいわかっているんだよねー? なあ、自分で新人記者を名乗るナナシさん。あ、新人記者というのが名前だったか」
「アレの名はシルキーと言います」
「へえ、初めて知った」
「名乗っていませんか?」
「名乗ってないし、偉そうに命令してきただけ。で、マナーも礼儀もなく態度も根性も悪いから断ったら、『女で新人だからバカにしている』って大騒ぎ。これは育てた大人に責任を問わなきゃね。あの子、まだオムツしてるんでしょ? どこをどう見ても大人だけどね。どう考えても常識ある大人が初対面の相手にとっていい態度ではない、ってことは、その態度が許されるくらい小さい子だってこと。孤児たちでもちゃんと挨拶できるよ」
やっと自身の立場を知った新人記者もといシルキーはガタガタ震えながら地面に座りこんだ。そんな彼女に、さらに周囲からの声が降りそそぐ。
「あの考え方、貴族だよな」
「貴族だった、じゃないか?」
「ああ。俺も『貴族排除の指輪』をつけているが、近くにいても問題ないんだよな」
「アレだろ、貴族の末子とかで家督を継げないとかで貴族籍から廃籍されるやつ。ここにいるってことは、早々に貴族籍から排除されたんじゃねえ?」
「女なら政略結婚もアリだろ」
「貴族の実子じゃないとかで出されたか、囲われていたけど母親が当主に飽きられて出された可能性もあるよな」
「そういえば、貴族籍を廃籍された場合、それまで使っていた名前は取り上げられて家族姓は名乗れないんだっけ」
「ああ、ということはシルキーって名前は廃籍でつけられた名前か」
「貴族の考え方が残ったままで、賞罰欄に傷はなく流れ流れてここにきたってことか」
一時期に王族や貴族がいたこともあり( 檻の中だけど )、記者たちは罰を受けなかった子供たちから王族や貴族の生活を聞き出していた。だからこそ、ダンジョン
シルキーは青ざめて震えていた。一見して王族や貴族と関わりのなさそうな冒険者たちが、どこの町の人たちより貴族たちの情報に詳しいことに驚いているのだろう。そして彼女の表情から、彼らの推測の中に正解が含まれていたようだった。
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