第330話
七メートルの大きさになっているジズは、境界線に阻まれて入れない男を観察するように見つめると、右の翼を動かして一薙ぎした。すると、男の背後から大量の黒い靄が祓われた。
それはまるで彼の体内から排除されたように見えた、と一部の目撃者はそう証言する。
ほかの人々は、男の装飾具が砕け散ったのを目撃していた。
「え? ……あ、え……?」
男は自分になにが起きたかわからずに混乱していた。その様子を見ていたジズは安全を確信したのか、翼を広げると音もなく飛び去った。
「それで、なにがあったのかジズに聞いてこいって? ダンジョンから戻ったばかりの私を捕まえて? 知りたかったら自分でいけ。
「読者のみんなも知りたいはずです!」
「だ〜か〜ら〜?」
「……え?」
「だから? それでなに? 私は情報部ではないし、アンタのパシリでもない」
「今までも協力してきたじゃないですか! 私が女だからって、新人だからってバカにする気ですか!」
私の言葉に憤慨する情報部の新人記者。周りも見えていないようだ。すでに各所へ連絡してくれている。このまま放っておいても大丈夫そうだ。
「協力? 私はただ取材を受けただけ。それも記者さんが調べてきたことを確認って形で。私はそれの補足をしていただけ。で、あなたは何? 自分で取材して回らず、何にもしないで私に丸投げ? それで私からもらった情報をただ文章にしてニュースとして流すの? ねえ、情報部って新人教育をしないで、記者として仕事をさせてるの?」
「そんなことありませんよ」
「え……? あ、先輩‼︎ 何故ここへ……」
自分の背後から声がして振り向いた新人記者。そこには情報部で私の担当記者が立っていた。私の担当は男女四つ子の記者。双子でもそうだが、多胎の場合、どちらが兄姉でどちらが弟妹というのはない。『一緒に生まれた兄弟姉妹はみな平等』という考えだ。立っていたのは四つ子の男性で名前をメッシュ。彼らは多胎の兄弟姉妹に多い『シンクロニシティ』を共有している。これは記者として有用で、同時に情報が共有される。
「メッシュ、おひさ〜」
「久しぶりです、エミリアさん。このような騒動に巻き込んでしまい、本当に申し訳ありません」
メッシュが朱色の頭を下げると新人記者が慌て出した。メッシュたち四つ子は情報部でもこのダンジョン
「身体の傷が癒えたとしても、見えない心の傷は深いこともある」
この言葉は四つ子に深い影を落とす。四つ子は事件被害者だ。だからこそ、大人たちの『
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