第318話
「そろそろ呼んだ方がいい?」
「まだだ。こちらの話し合いがすんでからにしろ」
ダイバの言葉に黙って頷く。「誰を」という疑問は持たず、いつ呼べばいいのかを指示する。
エルフ族は妖精が見える。だからフリンクたちを呼ぶなら妖精たちに伝言を頼めばいい。ちなみに呼ぶのはこの裏にある集会所。食堂に
集会所では八人を集めて毎月の賃金を渡したり、農園の作業で気になったことや改善・改修してほしいことの話し合いに使っている。
そして、食堂の料理もここに運ばれる。一番距離のあるハイルはブーブーと文句を言っていたが、元々風のエルフなだけあって、妖精たちが作る風に乗って集会所までの往復に慣れた様子。……時々、妖精たちがイタズラをして集会所の壁に顔面をぶつけるが。それでも、妖精の性格を知っているハイルは文句を言うだけで妖精たちを傷つける行為までしていない。
それだけでなく、四兄妹と食事時間が重なると、不器用ながら面倒を見るようになった。初日の顔合わせが最悪だったものの幼いアリシアがすぐに懐いたことで、少しずつ奴隷たち同士の交流が良い方向で向かっている。
「元々、ハイルは正義感が強かったらしいの。私のことがなければ、今でも立派な
ミリィさんはそういってハイルを許している。そんな彼を私やルーバーが許さないのは、まだミリィさんに頭を下げて「ごめんなさい」をしていないから。そして……
「いつまでそこで突っ立ってる気だ」
アゴールの低い声が扉の前に立つエルフたちに向かう。我が子を母親として愛しく思うアゴールにとって、ミリィさんがエルフの里で受けてきた数々の差別に
……しかし、すでに手遅れだった。
「ここにハイルがいると聞いた」
「ええ、そうですが?」
「彼の身柄を返してもらいたい。我々はそのためにわざわざこんなところまで来てやったんだ」
その言葉が出た瞬間に、無数の氷の刃が彼らを襲った。ちゃんと急所は外されている。
「エミリア!」
「違う、私じゃない」
ダイバが私を見たが、これは私の魔法でも妖精たちの
「アゴール、ダメだよ」
「大丈夫よ、簡単に殺す気はないから」
私とアゴールの会話にエルフたちが目を丸くする。
「エリーさん、コイツら選民思想の持ち主?」
「そういえばそうね」
「じゃあ……ハイルの主人としてコイツらを叩きのめす」
「騰蛇、コイツらあげるよ」と小さく呼ぶと、一気に地の底から強大な魔力が吹き出すように上がり、エルフたちを一人残らずパックンすると笑顔で地下へ戻っていった。その間一秒もない。騰蛇は神の眷属だけあって、床に穴は開かず建物には亀裂一つない。
「ちょっと、エミリアちゃん……」
「おいおい……」
呆気にとられていたみんなが慌て出したときには、すでにエルフたちの姿はない。
「あー、片付いた〜」
私がパンパンと手を払うように叩くと「エ〜ミ〜リ〜ア〜」と地の底から響くような声で、般若ダイバが私の前に立ち塞がった。
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