第289話


「そういえば、奴隷解放軍ってこの国に来てるんじゃない?」

「ええ、外周部に集まりつつあります」

「犯罪者を解放って何を考えてるの?」


そう、この世界の奴隷は犯罪者が半数だ。また、身売りで奴隷になった者も立場は借金奴隷と同じだ。自由の身になるには、働いて『自分自身を自分で買う』しかない。

犯罪に関係ない身売りの奴隷だった者は、封印されていたステータスを利用できる。称号に奴隷だった経歴を非表示にもできる。同じく借金奴隷だった者は、称号に『借金奴隷だった者』という表示が残される。非表示にはできない。

借金奴隷というのは、事件などによる慰謝料が一括で支払えないために奴隷となった経歴がほとんどだ。そのため、『罪を犯した者』という形なのだろう。

ちなみに身売りという形で売られたノーマンにその称号はない。売買されたとはいえ、最終的に家族として引き取られたからだ。


「外周部のトラブルって、こっちには関係ないんだよね?」

「はい、その通りです」

「……キマイラたち神獣の存在、外周部は知ってるよね?」

「もちろんです。空魚ルティーヤたちのことも理解しています」


みんな一緒に空で遊んだりするからね。最初は驚いていた外周部の住人たちも、今では『手出ししなければ襲ってこない』と理解している。小さくなって都市まちに入ってきても、冒険者や子供たちから魔物の肉を分けてもらっていて、まるで動物園の『ふれあい広場』のようになっている。


「つまり、神獣が姿を見せたときに慌てる連中がいたら、それは昨日今日来た住人以外で、身なりから解放軍かどうかわかるってことだよね」


旅行者が住人のような身なりで彷徨うろつくはずがない。つまり、住人のように見せかけていても、神獣たちが姿を見せたら……


「討伐しようとするだろうな」

「でも、そんなこと不可能だよね」


外周部は外周部で規則ルールがある。その中に、『武器の装備を禁ずる』というのがある。そのため、屋台村や隣接の広場のように害意を持って武器をだせば攻撃を与える魔導具が設置されている。さらに攻撃魔法を使おうとすれば、公開檻に設置されている魔導具と同じ物が起動する。

はじめは反対だった住人たちも、それが我が身を守ることにも繋がっていると気付いて受け入れられた。そんな場所で神獣に向けて攻撃の意思をもてば、傷付くのは自分の方だ。


「それで腕ががれようと、足が千切れようと。攻撃しようとした相手は神獣なんだから自業自得だよね。それとも神罰? 神獣罰の方が正しいかな?」

「大丈夫です。威力は弱いので欠損は起きません。気絶するかしないか程度の感電ですよ」

「髪の毛がチリチリになって花が咲く?」

「その点に関しては問題ありません。捕まえたら公開檻に入れますから」

「妖精たちが育てるからタネはちょうだいね」

「もちろん、お譲りします」


タネは薬になるけど、普通では花は咲くし実は成るがタネまで育たない。そして、タネができないと鬱々と沈み続ける意識を回復させられない。その状態では、奴隷として売却できない片付かない。それが妖精たちが世話をすると、ひと月もしないで確実にタネが採取できる。そうすると、簡単に罪を自白する。


「タネや花は罪のあらわれ?」

《 違うよ。花は良い心を目覚めさせるの 》

「じゃあ、タネは?」

《 ただの副産物 》

《 でも、薬になるんだからいいことだよね 》


タネは調合すると鎮静剤になる。一度に十センチのタネが六〜七粒採取でき、ひと粒で三十人分の鎮静剤が出来上がる。これは冒険者にとって大事なものだ。魔物の臭気に含まれる興奮作用で前後不覚に陥ったパーティの仲間を正気に戻すのに使われる。今まではブン殴って気絶させていたらしい。


「下手したら重症だよね。ダイバみたいな体力バカなら素手じゃ倒せないもん」

「大丈夫です。そのためにアゴールが副隊長として一緒にいるのですから」


アゴールの蹴り技で、ダイバの意識は一瞬で刈られていたらしい。…………アゴールの蹴りでもケガひとつないダイバもスゴいと思うよ。

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