第290話


「皆さま、ようこそお越しくださいましたー!」

「こちらは世にも珍しい……」


いつものように認識阻害のアクセサリーを身につけた私は外周部にきていた。今日は奴隷市初日、出品される奴隷が公開される日だ。オークション形式ではなく、出品された奴隷と売却金額を照らしあわせて、最終日に購入希望者が奴隷と奴隷契約を交わす。複数の希望者が現れた場合、くじ引きで決定される。そのクジも、竹串のように細く割いたものを奴隷市の責任者が用意してそれをひく。同時に奴隷も同じものをひいて、奴隷がひいた竹串の先端と同じ色の竹串を持った人が購入者となる。


「エミリア。奴隷市に行って奴隷でも購入する気か?」

「んー。買ってもいいけど、はないよ」

「なんだ? そりゃ」


私の返事に、城門で警ら中の警備隊隊員たちの頭に疑問符が飛びだす。


「ほら、『明るく楽しい農村をつくろう会』が発足するでしょ? その労働力を求めて」

「ああ、農村計画の件か。構想から三十年、やっと目処がたったんだったな」

「そう、ついでに酪農なども始まるらしいよ」


この世界にきて驚いたが、最初に住んでいた王都でさえ東京23区とほぼ同じ六百三十平方キロメートルの広さだった。ここ、ダンジョン都市シティに至っては、九百六十平方キロメートル( ダンジョンの大きさは含めず )もある。現在の生活基盤は約四百平方キロメートルに収まっていて、その北部に下水や廃棄物の処理場などがある。南部は広大な空き地状態。人が増えたら南に生活圏が伸びていく。東が城門、西がダンジョンと都市まちを区切る関所ゲート。東西に一直線に道がある。幅は片道一車線、大型トラックなら十分すれ違える広さ。貴族完全排除となったこの道路の北側に私の店舗兼住宅と、少し離れた南側にミリィさんとルーバーの店舗兼住宅がある。私の店は南向きで、食べ物を扱うミリィさんたちの店が北向きなのは、強い陽射しで食材が傷まないように、という配慮からだ。魔導具がつけられてある程度の暑さは軽減されるといっても、店内でコンロを使う以上、店内は暑くなる。そのため、貯水場がある北から吹く冷たい風が入りやすいように、飲食店はすべて北向きなのだ。

そして、まだまだ南部には未開の地が広がっている。そこを開拓しようという自給自足計画がもちあがったのが三十年以上前のこと。しかし、準備も道具も整えていざ開始! という段階で問題が発覚して、三十年前に呆気なく頓挫した。まず、水路の問題。そして植える農作物の確保。

それらが私と神獣の存在によって軌道に乗りそうなのだ。

水路は三十年の間に、地下水道を充実させて地下を巡り豊富に使えるようにはなっている。そして、神獣の存在で地面が浄化されて、荒れ地に雑草が生えてきた。さらに、私がほかの大陸の職人ギルドに所属したことで、職人ギルドと商人ギルドがポンタくんと取り引きを始めた。そのため、種苗が手にはいる目処もたった。

三十年前の無計画な思いつきによる立案ではなく、今回は細密に調べられて練られた計画書つきだ。そして、ポンタくんのルートから家畜の搬入も可能となった。


「生き物も送れるの?」

「商人ギルド、もしくは職人ギルドによるギルド間の取り引きだけですよ。もちろん個人同士やギルドと個人では取り引きできません」

「んじゃあ……」

「妖精も送れませんよ」


……あれ? イタズラが事前にバレてたわ。

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