第284話


「最近、外周部に住み着く連中が増えたんだよなぁ」

「ええ、一攫千金を夢にみてダンジョンにきて、本人曰く微罪云々で入れずに暴れて騒いで更なる罪を犯した冒険者バカモノが増えましたからねえ。中には馬車の中に隠れて入り込もうとして捕まったバカもいます」


ダイバの言葉にアゴールも頷いて補足する。その連中は仏像や塔などの珍しい物を手に入れた私に続けとばかりにやってきた。中には実物を見にきた人もいるのだろう。運良く都市まちの中に入れた屋台村の一部とはいえ結界内にあるため、直接見ることも触れることもできずにいる。


「ここの所有者は誰だ」

「直接みたいわ」

「ぜひ譲って欲しい」


そんな声が聞こえるものの、私に直接いってこないためスルー状態。私が『認識阻害』の魔導具を身につけているため気付かないのも理由だろうが、さらに私が借りているのが屋台村。そう、屋台の商人たちだけでなく、守備隊や警備隊の目も光っている。

結界の中に入るときに結界石をはずす。そのときに一瞬見えるものの、結界石を戻すと混在する塔や仏像が見えなくなる。二重結界を張っているからだ。


《 仕方ないよね。結界を外したら中身が飛び出ちゃうもん 》

《 いちいちしまうのも大変だもんね、エミリアが 》

「どっちが面倒か、と聞かれたら」

《 絶対出し入れするほう! 》


ということになった。ちなみに私のスペースは真横に警備部詰め所があるため、そちらから入って裏側から結界石を解除している。


「屋台村側は結界に近寄れないようしているから安心しろ」


ちょうど結界の前に警備部の隊員を立たせることで、私のスペースと警備部詰め所の両方を見守ることができるそうだ。


「そうですね、前の境界は隣の屋台と同じ範囲にしています。結界石はその内側。『許しのない者の立ち入り禁止』の魔導具がありますから、よほどのことがない限り入れません」

「迷惑ですよね。まだ洗浄中なので見せるとか譲るとかできませんよ。……する気もありませんし」

「しなくていいですよ。欲しければ自分でダンジョンに入ってこればいいんです。自分で探すこともせず、人が見つけたものを労力もお金もかけずにタダで貰おうなどと甘いんです。図々しい。もし、そんなこというバカが現れたら、すぐに教えてください。二度とそのように考えられなくなるように教育させていただきます」


入っても同じものが手に入るかわからない。それに、隠し通路と思われるルートにいつ、どう入ったかもわからない。地の妖精でさえ気付いていなかったのだから。


「そんなもん、冒険者なんだから自分でみつければいいさ」

「ダンジョンの破壊をしなければ、だけどね」

「破壊すれば、楽しい罰則が待っています。まずは冒険者ギルドからの追放。そして莫大な慰謝料の支払い。もちろん物納は可能ですが、支払えなければ借金奴隷。奴隷商に身柄を売り渡すことで、どこかの水路や井戸掘りの肉体労働。そしてステータス機能の封印の上、ダンジョン都市シティからの永久追放」


神獣たちのおかげで魔物の出没は減った。しかし、その範囲外に出れば魔物は溢れている。『追い払われた』状態に近いため、国内ではあるもののダンジョン都市シティから遠く離れている王都は神獣の加護から外れている。水路や井戸掘りの現場はその王都周辺にある。

今でも魔物による被害は起きている。『魔物よけ』の魔導具はあるものの、強い魔物には効かない。たとえ元冒険者でも、魔法も使えず武器もない状態では強い魔物相手に勝てる可能性は低い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る