第270話


《 人工でアンデッドを生み出すことが許されているのは、重い罪を犯した人にだけだよ 》

「それって私たちを不幸にした廃国王とか廃王子とか?」

《 私たちを使役した廃国の連中とか 》


ウンウンと頷くみんな。鳥籠の中の三人は正座して話に加わっている。


《 これまでにも、王族や貴族の罰に使われているんだよ 》


へえ、知らなかった。

そう言った私は、みんなから《 そりゃあ、そうでしょ 》と返された。廃国王や廃王子みたいな王族は、それまでの記録が抹消される。国王の名は記録から自動で消されて『愚王』などの称号に書き直されてしまう。


《 公式な署名には魔力が含まれる。名前が変われば署名も変わるよ 》

《 エミリアの場合は身分証が証明書だから。名前がエアからエミリアに変わったときに、身分証の名前も変わったでしょ? 》

「……見てない。でもステータスだったら、空欄だったのがエミリアになったのは見たよ」

《 うん、そう。そうやって犯罪者が名前を変えていくと、手配書の名前まで変わるんだよ 》

《 そうすれば、「別人です」って逃げることはできないからね 》

「私は聖女とやらじゃないです。別人です」


そう言った私をみんなが笑った。


《 エミリアはエアです。聖女じゃないです 》

《 エミリアは聖女じゃないです。別人です 》

《 エミリアは聖女じゃないです。聖魔師テイマーです 》

《 エミリアは私たちのです。誰にもあげません 》

《 エミリアはエミリアです。どこの国にも属していません 》

《 エミリアは聖女様の器ではありません。気のせいです 》

「あぁぁぁ! ふうちゃん、ひっどーい」


今度はみんながお腹を抱えて笑い出す。転がって足をバタバタさせて笑う子までいる。


「もう……みぃんな、ご飯抜き!」

《 エェェェ! 》

《 エミリア、ゴメン! 》

「知〜らない。ね、白虎ぉ」


隣に座っている白虎の首に抱きつくと、ブンブンと振られる尻尾。その尻尾で弾かれる妖精たちを横目に、私は白虎のもふもふを満喫して機嫌を回復させた。



「それで、騰蛇に魔物化されたメクジャはどの立ち位置?」

《 神の罰と同様 》

《 神がメクジャに罰を与えるのを騰蛇に肩代わりさせた 》

《 騰蛇が自分の手でやりたかったんだよ 》

「騰蛇にけどね。蛇だから」

《 だから、パックンって口でいったの 》

「ねえ、メクジャって吐き出されたの? それともお尻から?」

《 エミリア……。気になるのはそこ? 》

「え? 気にならない? 嘔吐物か排泄物か」


…………メクジャは排泄物でした。

自己意識はなく、すでに身も心も魔物化しているらしい。


「倒したらメクジャの生涯は終わりだよね。それでメクジャの罪は許されるの?」

《 ううん。メクジャはこのあと魔物に生まれ変わるよ 》

《 二度と魔物以上にはなれない 》

《 自分から魔物ひとでなしに落ちたからね 》


人より上が精霊、その上が聖霊だそうだ。


「じゃあ、妖精は?」

《 私たちは違うよ 》

《 私たちは最初から妖精。上も下もないの 》


妖精たちは何度生まれ変わっても妖精だそうだ。


《 だから私たちは属性が違っても家族なんだよ 》


シシィさんとアンジーさんとは種族が違うけど……。人間で言えば私の周りにいる妖精たちは子供、シシィさんとアンジーさんは思春期に該当するようだ。

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