第267話


「そういえば、メクジャってどうなったの?」


地下牢に落とされたところまでは知っている。私が面会したのは地上だったけど、それ以外はずっと地下牢にいたはず。


《 うーん……。生きているといえば生きているといえるけど…… 》

《 あれを生きているといっていいのかは別だけど 》

「一体なにがあったの?」


妖精たちが顔を見合わせてから覚悟を決めたように私に向く。


《 ダンジョンに飲み込まれた 》

「ダンジョンに、飲み込まれただぁぁぁ?」


私が声をあげると地の妖精が固い表情で頷いた。


《 あのね、メクジャって悪い魔法使いだったの。それを使って地下牢から逃げ出そうとしたから『ダンジョンのヌシ』に飲み込まれたんだ 》


『ダンジョンのヌシ』なら知っている。このダンジョン都市シティに私たちが住むことを許し、ダンジョンを管理している『火の神の眷属』。騰蛇とうだと呼ばれる巨大なヘビ。翼がないのに器用に空まで飛んじゃう。見た目が首長竜のレヴィアタンも空を進めるんだから、深く考えない方がいい。そして、ここのダンジョンのほとんどを制作したのはこの騰蛇だ。……騰蛇の巣穴跡、ともいえる。地中のマグマか太陽の赤龍フレアの化身ともいわれる騰蛇にとって、固い岩盤を進んで道を作るのも問題はないらしい。


「ピピンだって、『ペッ』したら大きな岩だって溶かせるんだから」

《 エミリア、なに張り合ってんのよー! 》


フンッと両手を腰にあてて胸を反らした私に風の妖精が苦笑した。そして、私の右肩に乗ったピピンも……たぶん胸を張ったのだろう。


《 ピピンまでエミリアと一緒に胸を張らなくていいでしょ 》


そう妖精たちに笑われた。

ちなみに騰蛇には爆笑された。笑い転げたのだ……大きな身体で。そのため、迷路だった騰蛇の巣穴が洞窟になった。


「そっか〜。こうやって迷宮や洞窟が作られるんだ〜」

《 …………なに、感心しているのよ 》

《 ていうか、小声で『面白〜い』って言わなかった? 言ったよね? 間違いなく言ったよね? 》

《 ダメだよ。ダンジョンの作り替えは許されないんだから 》

「以前、聖霊がやったよ。迷宮を洞窟に」


アクアとマリンの父親のことだ。


《 ……聖霊は神に属する者だから 》

「でもでしょ」

《 うん、神獣と同じ立場 》

「でも、神と同じバカでしょ?」

《 エミリア。一応、神も聖霊も『一部はバカ』なだけで全員じゃないから 》

「私が知ってる神も聖霊もバカだよ」


精霊や妖精や自然界は信じているが、それと同じく神や聖霊はバカだと信じている。口に出して言わないけど、妖精たちだってすでに神を見捨てて毎日仏様に手を合わせているよね。

結界内にはすでに妖精たちに磨かれた黄金の仏像が光り輝いている。……妖精たち曰く《 木の像の表面に薄い金が貼り付けられている 》らしい。


「薄い金? 金箔のことかな?」

《 紙みたいに薄いよ 》

みたいに薄っぺらい?」

《 エミリア。それ、ぜったい違うから 》


発音アクセントで違うことに気付いたんだろう。クラちゃんが『メッ』と注意してきた。光の妖精がペチペチと右手の甲を叩く。これが『神を侮辱した罰』だ。妖精たちが罰を下した以上、神は手を出せない。同じ人物が犯した罪に対して二重の罰は与えられない。


『同じ罪で複数の神が罰を下せない』


神の中でもそんな決まりごとがあるらしい。だから『早い者勝ち』なのだ。


「喫茶店で私に絡んだ男がいたけど? アイツは複数の神から罰を受けたよ」


商売の神や冒険者の神、女性の権限を守る女神に恋愛を守護する女神。レシピを管理する権利の神には重たい罰を与えられたそうだ。


《 だって、エミリア。それって各々の罪を同時に犯したんだよ 》

《 お店を侮辱して商売の神を怒らせて 》

《 冒険者を侮辱して冒険者の神を怒らせて 》

《 女性を見下して女性の権限を守る女神を怒らせて 》

《 恋愛は何股もすることは問題ないけど……たぶん魅了のスキルか魔導具か何かで心を操ったから、恋を守護する女神を怒らせて》

《 レシピを二つ、料理と接客マナーを侮辱して権利の神を怒らせたから重くなった 》


実はあの会話にはさらに細かい罪を重ねていたが、その神々は権利の神に罰を与える権利を委譲した。


「そんなことできるの?」

《 できるよ 》

《 エミリアの罰は私たちがやってるでしょ 》

《 それだっておんなじだよ 》


そして、やりすぎるとピピンや白虎に怒られて、リリンが拘束して高速で振り回す。それは加減を忘れた妖精たちへの罰と神は見ているらしい。

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