第206話
「な、なんでだ! なんで……」
地面でのたうち回って食いちぎられた腕を押さえつけて喚き散らす男。
「言ったでしょ、私の存在は『災害
私の声に呼応するように、使役されていた魔物たちが姿を現した。この子たちにも『状態回復』の魔法をかけて自由にする。
『
「さ、もう自由だよ」
魔物たちの頭を撫でてそう宣言すると、風の妖精たちが現れて全員を空中に浮かせてから四方八方へと飛ばした。
元の棲息地に戻したのだろう。
「よくも……! よくも……」
「次はアンタだよ」
「ふざけんな!」
「ふざけてなんかいない。このダンジョン
「この俺様に手が出せると思っているのか!」
「思ってる」
「俺は……」
「たとえ出身が他国だろうと、立場が王族だろうと。大陸法を破った罰は等しい。さらに、すべてにおいて『落ちこぼれ』が何を騒いでもムダだ。王族でいられず、国にいられず、聖魔士でいられず。……人間でいることすらできなくなった『落ちこぼれ』が」
「え……あ?」
移動用の見世物の檻が到着した。守備隊が運んでくれたのだ。檻の入り口が開かれると男を風の魔法で投げ込む。懇切丁寧に扱う必要はないだろう。入り口が閉じられると、中の様子が公開される。
「開けろ! 俺を誰だと思ってる!」
「バカだと思ってる」
即答した私の言葉に、緊張していた周囲の空気が一斉に笑いに変わる。中には外の様子も声も届かないため、自分がバカにされていることすら知らない。
「こんなの! 魔法でぶち壊してやる!」
そして、使った初級の火魔法。
「……訂正。バカじゃない。正真正銘の大バカだった」
火の対極は水。牢はバケツというより風呂の水をひっくり返したような量を男に落とした。一瞬で消える火魔法。
「クソッ! もう一度だ!」
今度は……
「あー……」
「バカだ」
濡れたまま使おうとしたのは雷の魔導具。
「ギャァァァァァァァァァァ‼︎」
さすがに諦めたのか、気力が萎えたのか。石畳の床に倒れたまま起き上がることもしない。
「エミリア。悪いが封印をかけてくれ。コイツを助けようとする
誰も口にしないが、頭に思い浮かべているのは一人。
「それって都長のことだよねえ」
口にした私に思わず頷いたり、苦笑したりと反応は様々だったが、誰も否定はしなかった。
封印だけでなく、守備隊以外が触れると感電して黒こげになるように手を加えた。光の妖精が私の店のノブに付与している『触ったら静電気でまっ黒こげ』をちょっと強化してみただけだ。ただし、死にはしない。その場で気絶してしまえば捕まえやすくなるからだ。髪の毛がチリチリになってまっ黒こげになるのも、言い逃れできないようにするためだ。こちらは火の妖精の
「守備隊以外は触らないようにね〜。他にも色々と私が楽しくなる細工はさせてもらったから……それでもいいなら触ってね〜」
「……生命が惜しけりゃ、誰も手を出すなよ」
私の言葉を守備隊の隊長が通訳すると、周りにいた人たちが一歩二歩と後ろへ下がった。
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