第199話
「事件は大きいから、上司は管理が不十分だった責任を追及されます。しかし、これらは巧妙に隠して続けられてきたということを含めた上で処分を公表します。まあ、減給か訓告ってところでしょう。上司には責任を押し付けることはしません。そして、これまで発覚できなかったことも考慮して、新たな管理部署を立ち上げようと思っています」
責任を感じている上司たちは、アゴールの言葉に驚いて顔をあげた。気付かなかったこと自体は罪だ。しかし、それを罪に問わないという。ただ、一切の罰を与えないということはできない。だからこそ、内容によって違うが軽めの罰が与えられる。
そして、アゴールが言った新たな部署は『監査部』だ。ダイバとアゴールに仕組みを説明したところ、監査部の立ち上げを決めたようだ。上司たちのうち何人かはそちらへ異動になる。忙しく難しい部署だが、今回の件で悔やんでいる彼らにとって、汚名返上・名誉回復のチャンスになるだろう。
さらに、冒険者ギルドを含めた全部署でも決算や棚卸しなど年二回行われることが決定した。決算といっても大袈裟なものではなく、毎月の会計が実際に合っているかをチェックするだけだ。今までは記入するだけで、年次決算も月次決算も日次決算すらもされていなかった。唯一、前月の繰越金が一行目に記載されているだけだった。
今回調べてみたところ、台帳の収入と支出の合計金額が合わず、毎月使途不明金が出ていた。
「毎月、お小遣いもらってる人がいるの?」
「んなわけあるか」
「い〜な〜。私にもお小遣いちょうだい」
「アホか」
「でも、毎月十万ジルの使途不明金がでてるよ」
そう言って台帳と一年分を計算した用紙をダイバとアゴールに見せた。二人は日次決算と月次決算をチェックして、金額の間違いを確認していった。
「……今まで誰も調べていなかったのか」
「監査をする担当がいないからでしょ」
「……なんだ? その『監査』って」
二人に監査を説明し、簿記の知識を持つ私がこの
「毎日続けることで、月の最後の決算が楽になるの。そうしたら、一年の最後の決算も楽になるんだよ」
「ええ、そうですね。これなら計算ミスならともかく、記載忘れのチェックも可能です。それに、ダイバみたいに期日まで放ったらかしにして、ギリギリで慌てるより何億倍もマシです」
「ぅおーい」
「何ですか? 今まで提出書類の数々を前日までに完成させていたことが一度でもありますか? ありませんよね。そんな天変地異、起きたためしはないですよね。だったら、声も息も止めて引っ込んでらっしゃい!」
あ〜。今日も平和でアゴールは舌好調だ。
「おい、エミリア。大人しくさせるアクセサリーでも作ってくれ!」
「……無理っしょ」
目の前にアゴール自身がいるのに。こんな状態で私からでもダイバからでもアクセサリーを贈ったら不審がられるだけでしょう。
「誰を大人しくさせるのかな〜? ねえ、エミリアさん。誰のことを言ってるんだと思いますか?」
「そりゃあ、『妊婦の自覚が薄い』のがいるからねえ。とはいえ、『父親になる自覚がない』のもいるからねえ。どっちもどっちだし……ほんと、似たもの夫婦だよねえ。子供がどっちに似ても大変そうだなあ」
仲良き事は美しき哉。
二人はお互い赤い顔をそらしているが、怒っているのではなく照れかくし。
普段からダイバがおちゃらけていられるのは、アゴールというストッパーがいるからだ。逆に、一人では取っ付きにくい感じのあるアゴールは、ダイバといることで周りに与える生真面目さが軟化されている。
竜の血が薄まっている
「そんなことより、この問題はどうするの〜?」
ピラピラ〜と計算した紙を振ると、二人はハッと我に返った。
「そうですね。我々にはチェック機関が必要でしょう。監査部を立ち上げてはいかがでしょう?」
「監査に入るローテーションは固定しないほうがいい。事前に細工される可能性もある」
「鑑定石をフル活用しましょう。賄賂などを受け取って、手心を加える者が現れるかもしれません」
「見逃してくれたら、お小遣いわけてあげるよ〜って?」
「そうですね。甘い汁を一度でも吸った者は、その魅力に惑わされてズルズルと繰り返してしまいます」
「……まるで魅了の魔法だね」
「ああ。たしかに」
私の呟きにダイバが納得したように同意する。
「俺たちが上でいられる間にカタチにしよう」
ダイバの言葉にアゴールは力強く頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。