第181話


「ここはあったかいね~」

《 湿度はどう? 調節したんだけど…… 》

「ありがとう。大丈夫だよ」


水の妖精が心配そうに声をかけてきた。私たちがいるのはにあるダンジョン。転移した最初の場所は海岸だった。


「これがダンジョン?」


そう言ってしまえるくらい『食材の宝庫』だった。全体を対象にして収納すると、私の収納ボックスの中は大量・大漁。魚介類はともかく、海藻類も多く、塩も苦汁にがりも大量に収納されている。この苦汁はポンタくんに買い取りしてもらう。それが豆腐屋で豆腐と姿を変え、豆腐料理となって私の胃袋を満たしてくれる。

……そんな『食材集めと避暑地の場』だと思われていた。



《 ねえ、エミリア 》


そんな場所にきた私たち。もちろん収納したらあとはノンビリ過ごすつもりだった。

ダンジョンのルールは『ワンフロアに滞在できるのは六日』とある。つまり、ここはこの広い海と砂浜だけのワンフロアで、六日間遊んでいるつもりだったのだ。

そこで、不思議そうに海を見ていた水の妖精が声をかけてきたのだ。


「どうしたの? みんなと一緒に遊ばないの?」


他のみんなは、砂浜を走り回る白虎の背に乗って楽しんでいる。白虎が時々海の中にダイブするため、みんなずぶ濡れだが楽しそうに声をあげて笑っている。……私も一緒に遊んでいたが、底無しの体力を持つみんなと同じようにはしゃいでいたら倒れてしまうため、早々に休憩に入っていた。


《 あっちにね……ダンジョンがあるよ 》


そう言った水の妖精は、沖に向けて指をさした。



《 本当にここが水の中なの? 》

《 うん。そう…… 》


火の妖精の言葉に水の妖精が申し訳なさそうに返事をする。ここのダンジョン内には水の妖精とピピン、そして私だけが入った。他のみんなは涙石の中にいたため、水の底に沈んだ建造物を見ていない。火の妖精の疑問も仕方がないだろう。


《 あ、責めているわけじゃないよ! ただ水の中っていうには明るいし空気もあるしダンジョンっぽい圧迫感もないし! 水の中というより、地上の建物の中って感じだから…… 》


しどろもどろで説明する火の妖精。しかし、水の妖精は少しずつ落ち込んでいく。


「仕方がないよ。水の中といっても、見ていないからね。……ちょっと、みんなでに出ようか」

《 いやぁぁぁ! 私、死んじゃうぅぅぅ! 》

「大丈夫、大丈夫。死なない、死なない」

《 い~や~~あ~~~! 》

「浜辺で水の中に入っていたでしょ」


騒いで逃げ出そうとする火の妖精の服を掴んで「みんなも行くよー」と声をかけると、全員が大人しく近付いてきた。妖精たちのその目はピピンを見ている。どうやら、ピピンに何か言われたおどされたのだろう。

火の妖精は、服の背中側を白虎に咥えられて大人しくなった。


「じゃあ、いっくよー」


そう言って、私たちの周りに魔法で空気のボールを作るとそのままトプンッと入り口にあたる床の穴に入った。


《 うわー 》

《 スゴい 》

《 水の中って、キラキラしてキレイ…… 》

ガウ……


初めて水の中に入ったみんなは驚きで声を失っていた。しかし、ダンジョンの入り口の周辺を漂っていると、少しずつ水の中の世界に慣れてきたようで感嘆の声があがりだした。


「お魚は私が収納しちゃったけどね。きっと、お魚が泳いでいるともっとキレイだよ。海底には珊瑚もあったみたいだから、肉食魚に食べられたかもしれないけど観賞魚もいるかもね。だから、次は浜辺からは水の上だけ収納して、ダンジョンの入り口から水の中を収納しようね」

《 水の中って、明るくてキレイなんだね。勝手に怖がってごめんね 》

《 ううん。見たことがないんだもん。仕方がないよ 》

「やーい。火の妖精の怖がり~」

《 違うもん! 》


しんみりしている二人に、口に出さなくても同じように水の中を怖がっていた他の妖精たちまでさっきまでの楽しい気持ちがシュンッと沈んでしまったようだ。そのため、私が火の妖精を揶揄うとムキになって言い返してきた。それにあわせてみんなも笑顔になっていく。


「えー? どこの誰だったっけー? 「死んじゃうー」なんて騒いでたのは」

《 ……エミリアのイジワル 》

「え? イジワルしていいの? じゃあ、火の妖精だけ水の中へポ~ン……」

《 キャー‼︎ イヤー! ごめんなさーい! 》


元々、火の妖精は水の中に入っても平気だ。ただ火属性のため魔法が使えないだけで。

だいたい、私が火の妖精を水の中へ投げ飛ばしたとしても、水の妖精が『水のボール』を作って火の妖精を守るだろう。


《 エミリア、お願い。火の子を許してあげて 》

「えー? 『火の妖精を海の中へポーン』して、死ぬかどうか試したいのに……」


私がまだ揶揄うと火の妖精が《 イヤー! 》と悲鳴をあげる。そんな火の妖精を抱きしめて《 大丈夫。私も一緒にエミリアに怒られるから 》と慰める水の妖精。その様子を見ていた他の妖精たちも火の妖精に近付き、《 一緒に『ごめんなさい』してあげる 》《 私も一緒に怒られてあげるから 》と口々に慰める。

ピピンは私の真意に気付いているようで、白虎の背に乗って私の様子を笑って見ていたが、プルプルと左右に揺れると、ピョ~ンと妖精たちのところへ向かっていった。

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