第157話


《 エミリアー。こっちに薬草あったよー 》

《こっちには鉱石があるよ 》

「人の出入りがほとんど無いって聞いたけど、これはちょっと……スゴいね」

関所ゲートが開く前、妖精たちとどこに入ろうと相談していた。その時、今日の受付当番のルフォイから「冒険者が一度も入っていないダンジョンがある」と教えてもらった。私たちも入ったことがないそのダンジョンは『採集用』だが、他の無料ダンジョンにもある素材がほとんどのため、お金を出してまで入ろうとする冒険者はいないらしい。

《 それにしてもすごいよね 》

「うん。……これって、全部収納してもらってもいいのかな?」

この目の前に溢れた広大な素材の山。

《 いいんじゃない? 》

《 そうだよねー。っていうより、エミリア。このダンジョンにあるのは全部収納して。これ以上は増えないみたいだから 》

地の妖精の言葉に頷いてフロアの素材を収納する。

「………………ねえ。何にもなくなったんだけど」

さっきまで植物に埋もれて密林ジャングル状態だったこの洞窟が『カラッポ』になった。見えているのは土の壁だけだ。

《 この六十七番のほかのダンジョンでもすでに一杯になってるよ 》

《 じゃあ別のダンジョンに入ったら、また潜りに来ましょう? 》

「そうだね」

《 六十七番は七つのダンジョンからできてるよ。だから、あと六つね 》

次のフロアへ向かうため、白虎の背に乗って階段を降りる。まとめて収納したため、何が手に入ったかを確認するためだ。チェックしながら歩いていて、そのまま階段を降りて足を踏み外し、ピピンの触手に救われて以降、白虎の背に乗ってチェックすることになっている。特に洞窟の場合、最初に収納し終えると、あとは階下へ移動するだけ。白虎が安全に運んでくれるため、私は収納した素材やアイテムのチェックに集中できる。

いま収納した素材はレア物が多かった。ただし『このプリクエン大陸では』だ。純度の高い水晶や宝石に鉱石、金塊などの通常のレアものだけでなく、この大陸のフィールドではほとんど採集不可能の薬草や虫草などの出現率と出現量が前にいたムルコルスタ大陸より異常に高い。『幸運に恵まれし者』の称号と、灯りの魔石を交換する管理部以外このダンジョンに足を踏み入れる者がいないからだろう。

《 一番から五番までのダンジョンは入り口が地上にあるけど、他のダンジョンは入り口が土の中にあるでしょ? だから冒険者が入らないと空気が循環されないの 》

今は風の妖精がダンジョン内の空気を循環してくれている。そうじゃないと、空気がよどんでいて一般人代表の私は……以前ポンタくんのところの縫製職人さんたちが面白がって作ってくれた『着ぐるみ』を脱げない。

この着ぐるみには浄化作用が付与されている。元々、野宿用の寝袋は「緊急時に逃げられない」という話があった。そして動けるように二股あしができた。それを部屋着用に作ってもらった。それは主に布団を蹴り飛ばして寝る子供を持つ親や、カワイイもの好きな女性が好んで購入した。そして……外でも着て歩けるように改良されたのがこの着ぐるみだ。

《 ところで、エミリア。その格好って…… 》

「ん? おかしい?」

《 おかしい、というより……見たことがないって言ったほうがいいのかなー? 》

《 ピンク色の動物……。エミリアの世界ではそんな生き物がいたの? 》

「いないよ。でも、カラフルな動物だったらいたよ。これは『本当の動物を子供受けに可愛くしたキャラクターもの』なの」

今度帰ったら見せてあげるね、と言うと妖精たちは喜んだ。この子たちは私が『聖女として召喚された異世界人』だということは知っている。だから、パソコンやタブレットに残っている画像のデータをよく見せている。そのおかげで、召喚前の記憶は完全に思い出していた。

ちなみに、いま着ているのは『ピンク色のウサギ』だ。タオル地で、色々と形が変えられる二十センチの立った耳と白い腹部が特徴となっている。他にはクマやイヌ、ネコなど何種類もある。

フードについた耳は集音器になっていて、フードを被っていても中の私には普通に会話が聞こえる。さらに遠くの音も集音しあつめてくれる。


「ねえ。ここには『魔物はいない』んじゃなかった?」

この階に来て気付いた、遠くから感じる『いないはず』の気配。

《 そのはずだけど…… 》

《 いるわね 》

《 いるよね 》

《 ……植物が瘴気を吸いすぎて浄化できなくなったみたい。浄化しても、もう元の植物に戻れないけど…… 》

光の妖精が気遣うように地の妖精に目を向ける。

魔物ならたとえ自分たちの属する相手モノでも倒すことに躊躇しない。しかし、私が気付いたのは元々植物だったものだ。

「その植物って種に戻せないかな?」

マーシェリさんを種に戻した時みたいに。

そう言った私に地の妖精が首を横に振った。

《 そのマーシェリは妖精でしょ? 妖精の宿った花だったからできたことなの。……でも、あれには妖精が宿っていないわ。たとえ浄化して種に戻っても、元の植物には戻れないの 》

《エミリア、泣かないで 》

「だって……」

被っているフードを暗の妖精がめくると、みんなが抱きしめたり頭や頬を撫でてくれる。救う方法はなく、ただ消すしかないなんて……

《 ねえ、エミリア。倒すしか方法はないけど、素材あの子を使ってあげて。それなら、あの子の死にも意味があるでしょう? 》

《 大丈夫よ。あの子は『生命をもった』から、次は地の妖精として生まれてくるわ 》

私たちがこのダンジョンに入らないから誕生した生命。冒険者が入らなければ、空気はよどみ、植物や鉱石が魔物化してしまう。それは喜ばしいことではない。普通に冒険者たちに倒されれば、次に生まれてくる時も魔物なのだ。

聖女わたし』や妖精たちが倒すことで、たましいが浄化されて妖精として生まれ変われる。

……気がついたら、魔物化した植物はいなくなっていた。私が泣いている間に、光と暗の妖精が浄化してくれたようだ。

以前、二人のコンビネーションを見せてもらったことがある。暗の妖精が敵のまわりを闇で覆って光と音を遮断し、光の妖精が強い光で消滅させた。この子たちは私の気持ちをおもんぱかって、魔物を苦しませず一瞬で倒す。そのため、はたから見れば残酷にうつるだろう。……中には、敵が苦しんで死んでいく姿を悦に入る悪趣味な妖精すらいる。傷つき、痛み苦しむことが理解できない。妖精たちは、それを理解する前に消滅してしまうからだ。生まれ変わっても、痛みを感じていないため理解していない。

この子たちがそれを知っているのは、私と契約したからだ。そして、幾度となくピピンの『教育的指導』を受けた。だからこそ《 痛いのはイヤ! 》とわかっている。

しかし、『妖精の罰』は手加減をしない。相手を殺すのではなく『こらしめる』のが目的だからだ。

暗の妖精は、私を覆って周囲を見えなくする方法をとることもある。私が使っていた『闇の壁』に近い。ただ、魔法と違い暗の妖精が使うのは『闇の箱』で、風や地の妖精とリリンも一緒に私を覆う。あの子たちが一緒なのは、三人とも酸素を生み出すことができるため、長期戦になった時に私から酸素を奪わないためだ。光や水の妖精たちやピピンも、『二酸化炭素を浄化して酸素に変える』方法で酸素を生み出すことが可能だ。しかし、戦闘組として攻撃や防御に徹してくれる。理由を聞いたら《 早く終えた方がエミリアのため 》だと教えてくれた。

今は、私の周りに変化は見られなかった。

暗の妖精が、集音器になっているフードを脱がせた理由がわかった。フードを被ったままなら小さな音を拾ってしまっていただろう。

私に気付かれないように。

……どこまでも優しいみんなの気遣いに、涙が溢れて止まらなくなった。

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