第153話
「おいおい。アレが『豪商の娘』なんか?」
「貴族お得意の『素っ裸』じゃないか」
「いや。コレで見廻りの隊員が来たら引き込むつもりなんだぜ」
「女性隊員を送ってやれ。寂しいから女性でも引き込もうとするかもよ」
「もう!なんで誰も来ないのよ!苦労してコルセットを外したのに!お金を握らせて、1~2時間娼婦みたいに咥えたり
娘のひとり言で見物人が大笑いしだす。
「あー。ハラ痛えー」
「おいおい。『豪商の娘』と書いて『しょうふ』と読むのかー?」
「アレがいう『パパ』って、父親じゃなく『ベッドのお相手』のことかよ」
「外周の娼館がお似合いじゃねえか」
「娼婦が気を悪くするぜ。娼婦の大半は仕事としてやってるんだ。
彼らは知らない。少し離れた場所から青褪めて檻の中の娘を見ている男がいることを。
・・・いや。その男に向ける視線を見ると、気付いていて
「おい。エミリアはどうした?」
守備隊のひとりが回ってきた。守備隊はエミリアに近寄る連中を纏めて追い払うのに忙しくしていたが・・・。
「すでにダンジョンに入った。あの男だろ?」
「ああ。都長の説教は終わったようだな」
娘の醜態を目の当たりにして、さらに先程の『
「そっちは何度か騒ぎになっていたな」
「大したことじゃないさ。エミリアに言い寄ろうとした男が『何もない場所で転んだ』とか。ベルトが緩かったのか『歩いていたらズボンが落ちて転んだ』とか」
「そのいくつが『妖精のしわざ』なんだろうな」
「さあな。どうせ、オレらには妖精の姿は見えないし、エミリアも気付いていなかったから『偶然』でいいだろ」
「本当に偶然だったのか?」
「ああ。近くにいた守備隊のヤツが「人が多いから、慣れてないと誰かの足で転ぶんだよねえ」って妖精と話しているのを聞いてる。妖精たちの会話は聞こえないが、エミリアの様子から妖精たちがすべて関わった訳ではないようだ」
「そうか。あとは店の方だな」
「いつもの連中が店の表と裏にいる。問題は『ダンジョンから出た時』だな。続けてダンジョンへ入るにしろ、一度は
「エミリアもその点を気にしていたな。警備隊員を通常より多めに配置しよう。特に冒険者以外を取り締まったほうがいいな」
「エミリアに絡むのは女も多い。「商品を特別に売ってくれ」って言いだすようだ。あとは商人連中か。「代わりに売ってやる」とか言ってるらしい」
「エミリアが店をやってるのは『自分で使いきれないから』だ。だいたいエミリアは渡航者だろ。つまり『この大陸以外』でも売る方法があるようだ。記憶をなくす前にいた大陸で商人ギルドに登録していたなら、そっちに売却出来るだろうな」
そう。エミリアの所持品を見れば簡単に分かる。冒険者服や一般的な収納カバンはレシピが出回っていても素材は違う。この大陸ではエミリアが持っているような『耐久性が高いもの』は少ない。
そう考えれば、エミリアは別の大陸から来たと考えられる。
ひとりだけエミリアと同じ大陸から来たと
彼女は記憶をなくしたエミリアを見守っているようだ。最近になって彼女の所に『仲間たち』が来るようになったが、連中もエミリアを黙って見守るつもりのようだ。
「ひとつ気になることがあるんだけどな」
「なんだ?」
「最近になってエミリアの近くに現れた五人だよ。・・・連中、大丈夫だと思うか?」
「ああ。エミリアが記憶をなくす前の知り合いらしい。エミリアが覚えていないから戸惑っていたようだが「もう一度初めからやり直す」ようだ」
「なんだ。ミリィの関係者だったのか」
「ああ。それも他国の王都所属の上級冒険者だそうだ。『王都所属の冒険者が他国、それも別の大陸で活動していいのか』と冒険者ギルドが問い合わせたら「かまいません」と返事が来たらしい。あの連中のパーティが50人を超えるらしくて「全員が一度にいなくなるのは困るが半数までなら問題無い」だとよ」
「・・・心が広いな」
「ああ。この国の王都とは大違いだ」
自分たちがエミリアに絡む不審者として見られているのに気付いた彼らは、警備隊詰め所に赴いて自分たちの身分を明かした。
「エミリアちゃん、だっけ?まだその名前に慣れないわね・・・。それで、記憶がないのはミリィから聞いたし、昼前にあの子と会って話したわ。あの子はなくした記憶を取り戻す気はないみたいだから、私たちは『エミリアちゃんともう一度初めからやり直す』ことにしたわ」
「ただね。エミリアちゃんったら『トラブルに巻き込まれやすい子』なの。今も色々とトラブルに巻き込まれるでしょう?だからお願いします。あの子がこの場所で生きていけるように協力して下さい。すべての
「俺たちの国にいた頃、『虫と魔物の
誰もがエミリアの幸せを最優先していた。それこそが、エミリアと
「エミリアとふたたび『良い関係』が築けるといいな」
「・・・ああ。今度こそ、守られるだけでなく守ってみせる」
「エミリアはこの大陸では保護されるべき
「ありがとうございます」
『自国の王都で守備隊の隊長をしている』という女性が深く頭を下げると、全員が同じように頭を下げた。
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