第137話


22番ダンジョンは土の迷宮だ。岩が多く、一見いっけんでは分からないが、鉱石や宝石がゴロゴロしている。そう。表面を見ただけでは分からない。紫水晶アメジストの原石のように、見かけに騙されてただの岩として見落としてしまうのだ。

ただ、今の私には『心強い仲間たち』がいる。



「ピピン。リリン。出ておいで」


ペンダントについている水色の宝石に手を触れると、地面に水色と黄緑色のスライムが現れた。聖魔師テイマー職になる気はなかったが、この二体のスライムと出会い、懐かれて放り出せなくなった。・・・放り出せば、確実に討伐されて死んでしまうからだ。私が会った時点で、すでに仲間たちから冷遇されていたようだ。そのため、一緒に行くなら名前が必要になると思い名付けたら、職業が『聖魔師テイマー』になった。

ちなみにこの『聖魔師テイマー』というのは、妖精や無害の魔物たちと『心を通わせることが出来る』職業だ。妖精の姿が見えず、無害の魔物たちに頼んで一時的に手伝って貰うしか能力がない人は『聖魔士』と呼ばれる。此方は『相手次第』というものだ。機嫌を損ねれば自分たちが攻撃を受ける。

何方も呼び方は『せいまし』のため、区別するため聖魔師を『テイマー』と呼んで区別している。聖魔士と違って聖魔師は希少なため、丁重に保護されている。


聖魔師テイマーが姿を見ることのできる『妖精』は、人間に姿を変えられるシシィさんやアンジーさんとは違い、『弱くはかない存在』です。ちょっとでも強い風で簡単に吹き飛び、光の粒子になって消えていきます。妖精といっても様々で、シシィさんたちとは種族自体が違うようです。そんな妖精は、聖魔師テイマーと契約することで簡単に消えなくなる。



《 ちょっと〜。私たちも出してよ〜 》


二体のスライムが楽しそうに周囲を飛び跳ねて遊んでいる姿に癒されていたら、ペンダントの宝石から声が聞こえてきた。


「って。呼んでなくても勝手に出て来るじゃん」


《 だって〜。私たちが出てこれるのって『ダンジョンの中』だけなんだもん 》


「家の中でもテントの中でも都市でもフィールドでも。勝手に出てくるでしょ」


《 仲間外れにしないでよ〜 》


そう言って私の前に現れたのは体長10センチの『風の妖精』です。すぐに『水の妖精』と『火の妖精』も飛び出してきました。『光の妖精』は出てきてすぐに周囲を明るく照らし、眩しかったのか『くらやみの妖精』が《 キャー 》と言いながら私の肩にしがみついて顔を隠した。妖精この子たちは重さがないため肩や頭に乗られても気にはならない。家やテント内では、わざとソファーの背もたれに軽く挟んでいる。妖精たちも魔物たちもそれが楽しいらしく、わざと挟まりにくるし、一生懸命隙間を探して潜りにくる。


「もう。光を強くしすぎよ。眩しいから少し弱めて」


《 ごっめーん。ちょっと嬉しくて張り切りすぎちゃったー 》


光の妖精は魔力を弱めると暗の妖精に近寄り《 ゴメンね 》と言いながら頭を撫でる。暗の妖精も《 大丈夫。驚いただけ 》と言って光の妖精に笑い返す。魔法では反発し合う光と暗だが、妖精たちは仲がいい。四元素の妖精たちも何故か仲がいい。


「あれ?『地の妖精』は?」


《 1番ダンジョンの様子を見に行ったよ。でも《すぐ戻る》だってー 》


《 なんかねー。《ダンジョンの様子がおかしい》んだってー 》


「おかしい?何が?」


《 ただいま。やっぱりおかしかったよ 》


詳しく聞こうとしたら、地の妖精が帰って来た。両手を差し出すと、手のひらの上にちょこんと正座した。この子たちは、手のひらに乗る時は必ずちょこんと正座する。その様子が可愛くて思わず顔が緩んでしまう。

いかん。いかん。癒されている余裕はなかったんだった。


「お帰り。何がおかしかったの?」


《 1番ダンジョン近くの地脈が弱ってた。だからダンジョンが壊れたところを修復出来なくて、崩れが大きくなっていったんだ。でも地脈の妖力チカラを強めてきたからもう大丈夫 》


「お疲れさま。どうする?魔力の補充する?」


《 ううん。大丈夫。ただね、補強も兼ねて地脈を強めたから、他のダンジョンもちょっと魔物が強くなってるかも・・・ 》


「だって。みんな頑張ってね」


《 妖精使い、あら〜い 》


「じゃあ、この辺の収集は終わったし置いてこ〜」


《 いやあー!置いていかないでー! 》


頭に必死にしがみついてくる風の妖精に誰もが笑った。



ガウ!


ペンダントの宝石から白虎ホワイトタイガーが私の前に現れて、遊んでいて散漫になってる私たちに注意を促した。


「・・・ああ。ウサギの登場だけど、誰が行く?」


《 私が行ってくるー 》


風の妖精が真っ先に飛び出していった。その後を水の妖精が追いかけて行く。風の妖精は攻撃が得意で防御が苦手だ。『攻撃は最大の防御』という子。敵に『旋風つむじかぜ』で攻撃し、身を守るために周囲に旋風を起こす。そのため防御が得意な水の妖精が『もしも』のためについて行ってくれたようだ。何時もならついて行く地の妖精はオールマイティの『出来る子』だが、地脈を回復して帰ってきたばかりのために、水の妖精は休ませてあげようと思ったようだ。


《 あの子、怖がりなのに・・・ 》


《 見た目以上に疲れているの、気付かれているんでしょ 》


「愛されてるねえ」


ガウ!


地の妖精は揶揄からかう私たちの言葉に苦笑した。

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