第126話
・・・ミリィが『壊れた』。
ヤスカ村で発覚した屍食鬼による襲撃。それは
食堂に入って来たエアちゃんはひどい状態だった。今にも倒れそうなエアちゃんの様子にミリィが必死に止めた結果「1時間後に寝る」と約束した。1時間だけ作業をしてからテントで寝ると。約束した1時間が過ぎて私とキッカがエアちゃんの研究施設に入ると、何時ものように結界を張って中にテントを置いていた。
休憩室の机の上には『みなさんで つかって』と書かれた銀のリングが置いてあった。使い方は簡単。
「エリー。その効果は?」
「・・・魔物の瞬殺」
私の言葉に全員が驚きで声を失った。それはそうだろう。鬼才のエアちゃんが繰り出す奇想天外なアイデアや商品に慣れたはずの私でも詳細を見て驚いたのだから。
「通常の状態では起動しない。『状態異常』に
「エリー。・・・どうした?」
気が強い方の私が涙を落としたことに、キッカたちが慌て出した。アクアとマリンが駆け寄ってきて「「 エリー。どこかイタイ?」」と心配された。
簡単だけど、エアちゃんに『魔物の
「オークに『知識の高いヤツがいる可能性』を聞いて、私が取り乱したことがあった。・・・エアちゃんと魔物の話をするために応接室に閉じこもった時よ」
「・・・あの、俺たちが駆けつけてもエアさんが扉を開けてくれなかった時、ですね」
「そう。あの時、エアちゃんの声で我に返ったけど憔悴しきってて・・・。エアちゃんは、そんな私を見せないために」
「そうだったんですか。あのあと見たエリーは疲れた表情でギルドに向かったから、何か大変な話を聞かされたんだと思ってました」
「ああ。あのあと『ヤスカ村と連絡が取れない』と騒ぎになったから、そのことを仮説で聞かされたんだと。それで青褪めていたんだと勝手に解釈してたな」
アルマンがそう言って、エアちゃんが作った銀のリングをひとつ手にした。
「エリー。これはエリーがこれ以上苦しまないように。そして、俺たちが『アイツらと同じ道』を辿らないように。その願いを込めて作ってくれたんだろうな。・・・あんなに倒れそうになりながら、それでも気力だけで」
そう言いながら、私の手にリングを乗せてくれた。銀色の無地になっている表面は私の顔を
「エリー。エアちゃんが急いでコレを作ったということは、いま起きていることが『魔物の
「アンジー隊長、それなんですが・・・。エアさんが考えた仮説を読んで下さい」
キッカが指輪と共に置かれていた『仮説』の書かれたメモを見せる。それをアルマンが声を出して読みだした。食堂内は息を飲む音すら大きく聞こえる。・・・それほど静まり返っていた。
「・・・エアさんの考えたことが、一番筋が通っているな」
アルマンの呟きが、私たち全員の気持ちを表していた。
私たちも色々な仮説を立てていた。
しかし、その
『何故、
『
『
エアちゃんの仮定は、そのすべてに答えていた。
「だとすると、彼女は
「それも死の瞬間に『夫と引き離された』ため、心を残してしまった・・・」
「安らかな眠りに導くには、『旦那が埋葬された場所の特定』だけど。フィシス、旦那の墓が何処にあるか分かる?」
何やら考え込んでいるフィシスに声を掛けると「たぶん」とだけ答えた。
「たぶん・・・
「私も・・・たぶん同じ場所を思い出してる。・・・だけど、彼処に墓はない」
シシィとアンジーも顔を見合わせている。
「其処は何処!」
「・・・
ミリィの答えに誰もが眉間にシワを寄せた。
『晦がり渓谷』
王都に続く街道の脇道に岩場がある。昔は其処に渓谷があり日中でも薄暗かった。それを良いことに、盗賊団が
しかし、それが災いした。
領地に帰っていた領主が王都に向かう馬車を襲って殺してしまったのだ。それも『王族』を。
時の国王は晦がり渓谷の盗賊を根絶やしにするように命じた。命じられた討伐隊は皆殺しにした。
・・・身代金目当ての人質と、
そして、討伐隊は渓谷を壊して証拠を隠滅した。
「追い詰められた盗賊が人質たちを道連れに渓谷を爆破した」
彼らは王都に戻るとそう報告した。しかし、そんな嘘はあっさり見破られた。
「人質がいるなど聞いていない」
「お前たちは『人質が何人いる』と何故分かったんだ?」
「人質のフリをした盗賊の可能性は?」
連日の取り調べで、討伐隊のひとりが自供した。そして、自供通り岩を取り除いた下から『炭化した骨』がいくつも見つかった。しかし、盗賊と人質たちの骨の判別がつかず、さらに触れれば崩れてしまうため回収を断念し、その地を埋めて『合同墓』とした。
・・・今でも被害者の残留思念が残り、時々姿が現れるといわれている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。