第111話


最悪なことに、ヤスカ村自体は『魔物避け』の魔導具のおかげで無事でしたが、ゴブリンは攻撃魔法を使って村を攻撃していました。そのため、冒険者ギルドが崩壊してしまい、連絡が取れなくなってしまったようです。

状態回復の魔法で元に戻るということはまだ知られていなかったようです。


「魔物けだけでなく、物理攻撃避けと魔法攻撃避けの魔導具が必要ですね。他に被害は?治療薬を送りましょうか?」


「・・・実はね。『人的被害』は少なかったの。魔物の直接攻撃はなかったから」


「エアさん。記録を送ります。何か気付いたことがあったら、あとでエリーにメールして下さい」


「お二人は今何処に?」


「テントの中です。食事を用意して来なかった貴族たちがいるため、テント内で食事をすることになりました」


その際に小さないざこざが起きたそうです。


「自分のメシは自分で用意してくるのは当然じゃないか?それとも『貴族より高位』の我々冒険者に「用意しろ」と言わないよな?」


「もちろん。疲れ切っている被災者に「助けに来てやったんだからメシの用意をしろ」なんて言わねえよなあ?」


驚いたことに、食事を持って来なかった貴族たちは『そのつもり』だったようです。

ちなみに、ヤスカ村の人たちは食事を分け合って乗り切ってきたそうです。ソレスさんとオルガさんが調査隊と行っていますが、二人が村の人の食事を作っているそうです。エリーさんに頼まれて『清らかな水』を送りました。ただの『雑味のない美味しい水』ですが、それでも皆さんに喜ばれたそうです。夕食には『癒しの水』を送って料理に使うそうです。そしてパーティメンバーの料理は、残っているボンドさんとパパさんが作って送っているそうです。


「仲間の食事を奪うようなことは許さない。持って来なかった者は王都に帰還するまで空腹でいろ」


「そんな・・・!」


「俺たちから奪えば『不敬罪』だ。被災者や他の貴族から奪えば『人道的』に問題がありとして家名を貶める。もちろん俺らが報告するけどな」


元々、自分たちの世話をさせるための従者を連れて来ようとしていたそうです。

そのため「自分で自分のことも出来ない『お荷物』はいらん!」と伝えたところ、調査部のトップ級宰相たちが「魔物をおびき寄せる生き餌エサにでも使って下さい」と言ったそうです。・・・本人たちの前で。

それで収納ボックスを手に入れて料理を詰めてきた貴族たちはまだ賢い。しかし半数は準備を怠った。もちろん自業自得。状況が分からないため野宿する可能性は高かったが、その準備もしていない。


「・・・家族などと連絡も取れないの?」


「良くも悪くも『お貴族様』だからね。自分のために従者が動くのは当たり前。食事も寝床も準備するのは従者の仕事。従者がいなくても、周りが自分のために動くのは当然。もちろん、誰かと連絡を取るのも従者の仕事。家族と連絡が取れるようになって困るのは自分自身。自由奔放に生きていたいだろうし。不貞行為お楽しみの真っ最中に、家族から連絡つうわを受けたくないでしょう?」


「じゃあ・・・。自業自得ですね」


「そうね。でも夜には『楽しい出来事』が待っているわ」


彼らは、テントの使い方が分かっていないそうです。テントを持って来た人もいますが、家族専用だったりするため、所有者以外に他者の使用登録が出来ないそうです。

昼食時に誰かのテントに入って・・・。なんて甘い考えを持っていたそうですが、前述の通り『所有者ではないためゲストとして入ることも出来ない』のです。それで騒いでいたそうです。


「冒険者ギルドなど、壊れた施設は『状態回復』で元に戻したわよ。だからテントなどを購入すればいいんだけど」


「これからも使いますよね」


「そうなんだけどね。今度から『テントの中に従者を入れて連れてくる』つもりみたいなのよ」


・・・バカですか?大バカですよね?救いようのない究極のバカですよね?


テントは『生者せいじゃが入ったままでは仕舞えない』のです。

もしもテントを仕舞った状態で所有者が亡くなった場合、テントの中にいる人は空間に取り残されて二度と出られないのです。それに、それが出来てしまうと検問の意味がありません。犯罪者が国内外を自由に出入り出来てしまうのです。


『ジャロームの少女』は亡くなっていたから空間に残してテントを仕舞えたのです。・・・仕舞えなくても、テントに飛翔フライをかけて運ぶつもりでしたが。


「そのバカなことを言っている貴族たちをテントに入れて、所有権放棄して重石をつけて泥沼の底に沈めたくなりました。ああ。今夜、凍死者多数ですよね。じゃあ、『テントの中に入ったまま王都に帰還』ですね」


「エアちゃん。連中の処罰は城に報告して決めるわ。たぶん『護衛依頼拒否』になると思う」


「城の兵士たちに護衛させればいい。今回のことで貴族側は『冒険者相手に二度と大きな顔が出来ない』ことを思い知っただろ。連中の大半は『人の上に立ちたい』だからな」


「・・・蹴り落としたい」


「ちょっとエアちゃん?!」


私の呟きにアルマンさんは大笑いし、エリーさんとキッカさんは焦っています。小さく吹き出して笑っている人もいます。


「だって、エリーさん。・・・役に立つ指導者ならいいですが、『目の上のこぶ』は必要ありません。あ!立場が下ですから『お尻の御出来おでき』ですね!」


「ちょっとエアちゃん!!」


エリーさんの声は、皆さんの爆笑で掻き消されました。それでも私に届いたのは、エリーさんからの通話だったからでしょう。

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